「契約した記憶はあるが、誰がどれだけ使っているか分からない」——そんなクラウドサービスやサブスクが、毎月静かに利益を削っているかもしれません。
SaaSは導入のしやすさゆえに増え続け、いまや「棚卸し」をしないと全体像が見えない時代になりました。さらに2026年は通信費や社会保険料など固定費の値上げが重なり、コスト構造を見直す絶好の機会です。
本記事では、中小企業の経営者・総務・情シス・Web担当の方に向けて、使われていないSaaS・サブスクを洗い出し、ムダな支出を取り戻すための具体的な手順を、最新データとともに解説します。
この記事でわかること
- SaaS・サブスクが「増えすぎる」構造的な理由と最新の利用実態
- 放置された契約が生む「3つのムダ」(未使用・重複・把握漏れ)
- 今日から始められるSaaS棚卸しの7ステップ
- そのまま使える「棚卸しチェックリスト」
なぜいま「SaaS・サブスクの棚卸し」が必要なのか
結論:SaaSは「増え続ける」のが当たり前になった
まず押さえるべき事実は、企業のSaaS利用は減るどころか増え続けているという点です。法人向けソフトを手がけるハンモックが、SaaSを6〜15個導入する企業の情報システム部門106名に行った調査では、「2年前に比べてSaaSの導入・利用が増えた」と答えた企業が84.9%(「かなり増えた」34.9%+「やや増えた」50.0%)にのぼりました。さらに90.6%が「今後も増やす予定」と回答しています。
導入数の目安として、BizteXが売上高500億円以上の上場企業1,451社を調べた調査では、エンタープライズ企業の1社あたり平均4.9サービスのSaaSを利用していました。中小企業ではチャットやオンラインストレージ、社内情報共有など「業務インフラ型」のSaaSが中心ですが、部署ごとに思い思いのツールを契約しやすく、全体像が見えにくくなりがちです。クラウドサービス自体の普及も進み、総務省「令和3年版 情報通信白書」ではクラウドを利用する企業の割合は68.7%に達しています。
2026年は「値上げの春」——固定費を見直す好機
もう一つの背景が、コスト全体の上昇です。創業手帳の解説によれば、2026年4月以降はガソリン・食品・酒類・固定電話/通信費・電気ガス・社会保険料・物流費など、幅広い項目で値上げや負担増が重なります。とりわけ見落としやすいのが「少額の固定費」で、月500〜1,000円の値上げでも、複数のクラウドツールを使っていれば無視できない金額に膨らみます。
固定電話の基本料金が月330円上がっても1回線なら小さく見えますが、複数回線・複数拠点では年間数万円規模のコスト増になります。同じことが、クラウドツールや業務ソフトにも当てはまります。(創業手帳)
だからこそ、値上げ局面は「契約内容を棚卸しする好機」です。創業手帳も対策として、固定費は単純な「解約」より、いまの働き方に合った契約への「置き換え」、そして使っていないSaaSの整理を挙げています。
トレンドは「SaaSの淘汰・再編」——だから自社も点検を
SaaSを取り巻く空気も変わってきました。Googleトレンド(日本・直近7日間)で「SaaS」を見ると、関連キーワードとして「saasの死」「saas関連銘柄」「セールスフォース株価」「erpとは」といった語が軒並み急上昇しています。AIの台頭でソフトウェア業界の構造転換が議論されるなか(ITmedia「SaaSは死ぬのか、進化するのか」など)、利用する企業側にも「本当に必要なツールはどれか」を見極める姿勢が広がっているといえます。市場の再編期は、自社の契約を点検する良いきっかけです。
放置されたSaaSが生む「3つのムダ」
ムダ1:使われていないライセンスのコスト
最も分かりやすいのが、契約したまま使われていないアカウントです。導入時は全員分そろえても、退職・異動・プロジェクト終了で実際の利用者は減っていきます。利用状況を定期的に見直さないと、「席数」だけが当初のまま課金され続けてしまいます。
ムダ2:機能が重複するツールの併存
部署ごとに別々のツールを導入した結果、チャット、オンラインストレージ、Web会議、タスク管理などが二重三重に契約されているケースは珍しくありません。BizteXのレポートも、SaaSが増えるほど「不要なライセンスの維持や機能が重複するSaaSの利用」が起きやすく、全社的なコスト最適化が難しくなると指摘しています。
ムダ3:「把握できていない」こと自体のリスク
そもそも何を契約しているか分からない状態は、コストだけでなくセキュリティ上のリスクにもなります。前出のハンモック調査では、SaaS管理の課題として「社内のSaaSの契約・利用状況の把握」を61.3%、「社員それぞれのSaaS利用状況の把握」を60.4%が挙げました。退職時のアカウント削除漏れを課題とする声も28.3%あり、シャドーIT(管理外の利用)対策を「重要」と感じる割合は91.6%に達しています。把握漏れは、ムダな支払いと情報漏えいの両方を招きます。
今日からできる「SaaS・サブスク棚卸し」7ステップ
棚卸しは特別なツールがなくても、表計算ソフト1枚から始められます。以下の順で進めると、ムダを見つけやすくなります。
- 契約を一覧化する:サービス名・契約者・課金部署・席数(ライセンス数)・月額/年額・支払い方法・更新日・支払い通貨を1行ずつ書き出します。クレジットカード明細や経費精算データが棚卸しの起点になります。
- 「誰が・何に・どれくらい」使っているかを調べる:各サービスの管理画面で、直近のログイン状況やアクティブ利用者数を確認します。90日以上ログインのないアカウントは見直し候補です。
- 重複・代替を洗い出す:同じ用途(チャット、ストレージ、Web会議など)のツールが複数ないかを確認し、統合できないか検討します。
- 「解約」より「置き換え・統合」を優先する:いきなり止めると業務が止まることもあります。既存の統合ツール(グループウェアやオフィススイートなど)に寄せられないかをまず考えます。
- 更新日と値上げ・為替を管理する:自動更新の直前に判断できるよう、更新日をカレンダー化します。海外SaaSはドル建て課金だと為替で実質値上げになる点も要注意です。
- 退職者・異動者のアカウントを点検する:入退社・組織変更のたびに発行・削除を行うルールを決め、削除漏れによる課金とセキュリティリスクを防ぎます。
- 棚卸しを「年中行事」にする:一度きりで終わらせず、四半期または半期ごとに同じ表を更新します。担当者が変わっても引き継げる状態にしておきます。
そのまま使える棚卸しチェックリスト
- 契約の全体像:すべてのSaaS・サブスクを1枚の表に書き出せているか
- 利用実態:各サービスのアクティブ利用者・最終ログインを確認したか
- 席数の最適化:実際の利用者数に対して席数が多すぎないか
- 機能の重複:同じ用途のツールを二重に契約していないか
- 更新日・通貨:更新日を把握し、為替変動の影響も確認したか
- アカウント管理:退職者・異動者のアカウントを削除・変更したか
- 運用ルール:新規契約の申請と棚卸しの頻度をルール化したか
まとめ
SaaS・サブスクは便利な反面、放置すると「未使用」「重複」「把握漏れ」という3つのムダを生みます。8割を超える企業でSaaSが増え続け、2026年は固定費の値上げも重なるいま、コスト構造を見直す価値はこれまで以上に高まっています。
大切なのは、いきなり大なたを振るうことではなく、まず1枚の表に契約を書き出し、「誰が・何に・どれくらい」使っているかを把握することです。そのうえで重複を統合し、更新日とアカウントを管理し、棚卸しを定期的な習慣にする——この積み重ねが、値上げに強い「利益が残る経営」につながります。
よくある質問(FAQ)
Q. 棚卸しはどのくらいの頻度で行えばよいですか?
A. 四半期または半期ごとが目安です。更新日が集中する時期の前に行うと、解約・見直しの判断がしやすくなります。
Q. 何から手を付ければよいか分かりません。
A. まずはクレジットカード明細と経費精算データから、毎月・毎年支払っているサービスを書き出すところから始めましょう。金額の大きい順、または利用者が見えない順に確認すると効果的です。
Q. 使っていないようでも、解約してよいか不安です。
A. いきなり解約せず、一定期間「利用状況を観察」してから判断するのが安全です。データのエクスポートやアカウント保持の要否も確認しましょう。
Q. 海外製のSaaSはコスト管理で何に注意すべきですか?
A. ドルなど外貨建ての課金は、為替変動で実質的な値上げになることがあります。年額・通貨・更新日をあわせて管理してください。
Q. SaaSの「シャドーIT」とは何ですか?
A. 情報システム部門の承認を得ずに、現場が個別に契約・利用しているツールのことです。コストの把握漏れに加え、情報漏えいのリスクにもつながるため、棚卸しで可視化することが重要です。
参考文献・出典
- 株式会社ハンモック「【情報システム部門 SaaS管理の実態調査】8割以上が2年前に比べ、SaaS導入数増加を実感。」https://www.hammock.jp/assetview/media/saas_research.html (参照日:2026年6月21日)
- BizteX/DX hacker「【2024年版】SaaS導入状況レポート!日本のエンタープライズ企業で最も導入されているカテゴリは?」https://service.biztex.co.jp/dx-hacker/it-dx-column/saas-map-2024/ (参照日:2026年6月21日)
- 総務省「令和3年版 情報通信白書」企業におけるクラウドサービスの利用動向 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd242140.html (参照日:2026年6月21日)
- 創業手帳「【2026年4月値上げ一覧】経営への影響は?ガソリン・食品・固定電話・社会保険料まで、経営者が今すぐ打つべき対策」https://sogyotecho.jp/neage-202604/ (参照日:2026年6月21日)
- ITmedia オルタナティブ・ブログ「SaaSは死ぬのか、進化するのか?──2026年ソフトウェア産業の構造転換」https://blogs.itmedia.co.jp/business20/2026/04/saas2026.html (参照日:2026年6月21日)
- Googleトレンド(日本・直近7日間、検索語「SaaS」「サブスク 見直し」)https://trends.google.com/trends/ (参照日:2026年6月21日)
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