大阪府の最低賃金は、2026年10月1日から時間額1,231円になります。現行の1,177円から54円の引き上げ。発効まで、残り3週間ほどです。
多くの中小企業は「言われたから上げる」で終わります。ところが、まったく同じ金額を上げても、助成金の対象になる会社と、1円も出ない会社に分かれます。
差を分けているのは金額ではなく、順番と、社内に残っている書類です。この記事では、賃上げと雇用助成金が噛み合わない理由を、厚生労働省の一次情報にあたりながら整理します。
この記事でわかること
- 大阪府の最低賃金がいつ・いくらになるのか(一次情報ベース)
- 「賃上げしたのに助成金が出なかった」が起きる3つの構造的な理由
- 雇用助成金が求める時系列(計画の届出 → 規定の改定 → 適用 → 6か月 → 申請)
- 9月中に手を付けておきたい社内の確認ポイント
- 大阪・兵庫・京都で発効日が違うことによる実務上の注意点
大阪府の最低賃金は10月1日から1,231円になる
大阪労働局は、大阪府最低賃金を令和8年10月1日から時間額1,231円に改正すると公表しています。現行額1,177円からの引き上げ幅は54円です。
対象は、大阪府内の事業場で働くすべての労働者です。正社員・契約社員・パート・アルバイト・学生アルバイトを問わず適用されます。
実務で見落とされやすいのが、発効日の扱いです。大阪労働局は次のように明記しています。
使用者は、賃金算定期間の途中に発効日がある場合でも、発効日以降は改定後の最低賃金額以上の賃金を支払う必要があります。(大阪労働局|大阪府最低賃金は、令和8年10月1日から時間額1,231円に改正されます。)
つまり、賃金締め日が毎月20日の会社であっても、10月1日以降の労働時間には1,231円以上を適用しなければなりません。「次の給与サイクルから」では遅い、ということです。
関西でも発効日はバラバラ
ここは複数拠点を持つ会社ほど注意が必要です。最低賃金は都道府県ごとに額も発効日も異なります。兵庫県は時間額1,172円で、発効日は令和8年10月1日と兵庫労働局が公表しています。一方で、京都府は他府県より遅い11月中旬の発効が予定されているなど、同じ関西圏でもタイミングが揃いません。
大阪本社・兵庫支店・京都営業所という構成であれば、事業場ごとに「いつから、いくらに」を分けて管理する必要があります。自社の該当額と発効日は、必ず厚生労働省|地域別最低賃金の全国一覧および管轄の労働局で確認してください。
なぜ「賃上げしただけ」では助成金が出ないのか
ここからが本題です。賃上げ関連の雇用助成金を検討したものの、結局対象にならなかった——という相談は、毎年この時期に集中します。理由は大きく3つあります。
理由1:助成の対象は「賃上げ」ではなく「制度をつくり、運用したこと」
雇用助成金は、社長が個別に「今月から時給を上げるわ」と決めたことに対して支払われるものではありません。就業規則や賃金規定といった客観的なルールを整備し、そのルールに沿って実際に賃金を支払ったという事実に対して支給されます。
厚生労働省のキャリアアップ助成金Q&Aは、「適用」という言葉をこう定義しています。
「適用」とは単に制度を導入することだけではなく、実際に当該制度が運用されている(当該制度に基づく賃金が支給されている)ことを指します。(厚生労働省|キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース以外)Q&A(令和8年7月29日))
口頭の約束や給与明細の数字だけでは足りません。規定と支払実績の両方が揃って、はじめて要件を満たします。
なお、同Q&Aは、常時10人未満の事業所についてもこう述べています。就業規則の作成義務がない規模であっても、「労働者が確認できる客観的な規定に基づいて」取組を実施することが必要で、コースによっては就業規則または労働協約の作成・整備が求められます。10人未満だから関係ない、とはなりません。
理由2:法律上やらなければならないことは、通常「上乗せ」の評価が難しい
最低賃金の引き上げ対応は、法律上の義務です。義務を果たしただけの賃上げが、そのまま助成の対象と評価されるとは限りません。
賃上げ系のコースでは、「最低賃金の引き上げに伴って自動的に上がった分」と「事業主が自らの判断で上乗せした分」を分けて考える設計になっているのが一般的です。そして、公示日や発効日との前後関係によって取扱いが変わり得るため、ここは自己判断がもっとも危険な箇所です。
「うちの賃上げは対象になるのか」は、必ず管轄の労働局に事前確認してください。判断を誤ると、6か月後の支給申請の段階まで気づけません。
理由3:取り組みを始める「前」に、計画の届出が要る
これが最も取り返しのつかない失敗です。キャリアアップ助成金では、キャリアアップ計画の届出が済んでいて、なおかつ計画期間の中で取組が行われている必要があります。Q&Aには、次のような具体例が示されています。
キャリアアップ計画書をコース実施日(正社員転換日)の前日までにご提出いただいても、正社員転換等の取組が計画期間内でなければ、助成対象とはなりませんので、ご注意ください。
書類を先に出していても、取り組んだ日が計画期間の外なら対象外。日付が1日ずれただけで結論が変わる世界です。
助成金に共通するこうした「前提条件」の全体像は、助成金は制度選びが先ではない|雇用助成金に共通する要件と必要書類でも整理しています。制度名から入ると、この落とし穴を踏みます。
雇用助成金が求める時系列を、そのまま図にする
賃上げ系の助成金は、おおむね次の順番で進みます。順番が入れ替わると成立しません。
順番 | やること | ずれたときに起きること |
|---|---|---|
1 | キャリアアップ計画などの計画届を提出し、計画期間を確定させる | 期間外の取組はすべて対象外になる |
2 | 就業規則・賃金規定を改定し、必要な事業所は労働基準監督署へ届け出る | 規定の裏付けがなく「客観的な規定」の要件を満たさない |
3 | 改定後の賃金を実際に適用する(適用日=賃金に反映される日) | 施行日と適用日を取り違え、起算日がずれる |
4 | 改定後の賃金を一定期間(コースにより6か月など)支給し続ける | 途中の減額や離職で要件を欠く |
5 | 定められた期間内(賃金支給日の翌日から2か月以内など)に支給申請 | 1日遅れれば受け付けられない |
3の「適用日」は特に間違えやすいポイントです。Q&Aは、賃金規定等を改定した日とは施行日ではなく適用日を指すと明記しています。4月1日から賃金規定を増額改定し、増額後の賃金が当日分から給与に反映されるなら、適用日は4月1日です。
5の申請期間についても、就業規則に書かれた賃金支払日ではなく実際に賃金が支給された日が起算点になります。金融機関の休業で前倒し支給した場合、申請期間もその分前にずれます。
また、常時10人以上を雇用する事業所は、就業規則の改定後すみやかに労働基準監督署へ届け出る必要があります。賃金一覧表など附則だけの改定であっても届出が必要とされている点は、見落としが多い部分です。
9月中に確認しておきたいこと
10月1日の発効まで時間は限られています。今月中に、社内で次の点だけでも確認しておくと判断が早くなります。
- 現在の最低時給の人が何人いるか。時給1,177円前後の従業員をリストアップし、10月以降の人件費増を概算する。
- 月給者が最低賃金を下回っていないか。月給を所定労働時間で割り戻す計算が必要です。固定残業代や一部の手当は算入できない場合があるため、計算方法の確認を。
- 就業規則・賃金規定が最新か。何年も改定していないなら、それ自体が助成金申請時のボトルネックになります。
- 雇用契約書・出勤簿・賃金台帳が揃っているか。助成金の審査は、この3点セットの整合性で見られます。原本から転記した書類ではなく、実際に事業場ごとに調製しているものが必要です。
- 労働保険料の納付に漏れがないか。雇用関係助成金では、この種の基本要件でつまずくケースが少なくありません。
- 今後1年の採用予定。助成金は採用時・雇用形態の見直し時が狙い目です。採用計画と制度整備をセットで考えると効率が上がります。
賃上げの原資そのものを支援する制度としては業務改善助成金があり、こちらは設備投資などとセットで検討する形になります。詳細は業務改善助成金2026|9月1日受付開始・最大600万円、大阪の賃上げ前に準備をで扱っています。
令和8年度は「情報を公表する」ことが加算になった
あわせて押さえておきたい変更点があります。厚生労働省は令和8年4月8日から、キャリアアップ助成金の正社員化コースに情報公表加算を新設しました。正規雇用労働者への転換等に係る所定の情報を、自社で管理するウェブサイトまたは職場情報総合サイト「しょくばらぼ」に公表した場合、1事業所あたり20万円(大企業は15万円)が加算されます(1事業所あたり1回のみ)。
公表内容は、転換制度の概要(手続き・転換の要件・実施時期)、直近3事業年度の転換人数、雇入れから転換までの平均期間と最短期間の3点です。詳細な条件はキャリアアップ助成金|自社HP公表で20万円上乗せ・申請前チェックリストで整理しています。
自社ホームページを持っているなら、更新するだけで加算の対象になり得る、という点は中小企業にとって現実的な話です。制度の詳細は厚生労働省|キャリアアップ助成金のページとキャリアアップ助成金のご案内(令和8年度版)で確認できます。
まとめ
- 大阪府の最低賃金は2026年10月1日から1,231円。賃金締め日の途中でも、発効日以降は改定後の額以上を支払う必要がある。
- 助成金の対象は「賃上げ」そのものではなく、規定を整備し、その規定どおりに賃金を支払った事実。
- 計画の届出 → 規定の改定・届出 → 適用 → 一定期間の支給 → 期限内の申請、という順番を崩すと成立しない。
- 最低賃金の引き上げに伴う昇給分の扱いは前後関係で結論が変わり得るため、自己判断せず労働局に確認する。
- 関西でも府県ごとに額と発効日が異なる。複数拠点なら事業場単位で管理する。
賃上げは、どのみち10月にやってきます。同じお金を使うなら、制度が拾ってくれる形に整えてから使うほうが得だ、という話です。
よくある質問(FAQ)
Q. 10月1日より前に賃上げしても、助成金の対象になりますか?
A. コースごとに要件が異なり、最低賃金の公示日・発効日との前後関係によって取扱いが変わり得ます。一般論で断定できる領域ではないため、管轄の労働局または専門家に事前確認してください。確認せずに実行し、6か月後に対象外と判明するのが最悪のパターンです。
Q. 従業員が5人しかいません。就業規則がなくても申請できますか?
A. 常時10人未満の事業所には就業規則の作成義務はありませんが、キャリアアップ助成金では「労働者が確認できる客観的な規定に基づいて」取組を実施することが必要とされ、コースによっては就業規則または労働協約の作成・整備が求められます。10人未満の事業所が就業規則を作成する場合は、事業所内周知を取組日までに行ったうえで、支給申請前に労働基準監督署長へ届け出るか、周知実施についての申立書を添付する取扱いが示されています。
Q. 助成金と補助金は何が違うのですか?
A. 雇用関係の助成金は、要件を満たせば原則として受給でき、返済義務がありません。一方、補助金は公募・審査があり、採択されなければ受け取れないものが一般的です。詳しくは助成金は制度選びが先ではない|雇用助成金に共通する要件と必要書類をご覧ください。
Q. 賃上げの後で就業規則を直せば間に合いますか?
A. 順番が逆になると、要件を満たさない可能性が高くなります。規定を整備し、その規定に基づいて賃金を支払う、という流れが前提です。改定後に速やかな労働基準監督署への届出が必要な事業所もあるため、賃上げの実施前に規定側を先に固めるのが安全です。
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参考文献・出典
- 大阪労働局|大阪府最低賃金は、令和8年10月1日から時間額1,231円に改正されます。(2026年9月8日参照)
- 厚生労働省|地域別最低賃金の全国一覧(2026年9月8日参照)
- 厚生労働省|キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース以外)Q&A(令和8年7月29日)(2026年9月8日参照)
- 厚生労働省|キャリアアップ助成金(2026年9月8日参照)
- 厚生労働省|キャリアアップ助成金のご案内(令和8年度版)(2026年9月8日参照)
- 兵庫労働局|兵庫県最低賃金 時間額1,172円に改正決定(発効日は令和8年10月1日)(2026年9月8日参照)
- Googleトレンド(日本/過去7日間・過去30日間、キーワード「助成金」ほか)で検索動向を確認。関連トピックの急上昇に「最低賃金」が含まれていたことを本記事のテーマ選定に用いました。(2026年9月8日参照)
※本記事は2026年9月8日時点で確認できた情報をもとに作成しています。助成金の支給額・要件・申請期限は制度改定により変更される場合があります。実際の申請にあたっては、必ず厚生労働省および管轄の労働局の最新情報をご確認ください。




