「正社員に登用したいが、原資が足りない」。中小企業の経営者から最も多く聞く言葉です。
その正社員化に、2026年4月8日から新しい上乗せ(加算)が1つ増えました。キャリアアップ助成金・正社員化コースの「情報公表加算」です。
やることは、正社員転換に関する所定の情報を自社のホームページ、または国のサイト「しょくばらぼ」に公表するだけ。それで1事業所あたり20万円(大企業は15万円)が上乗せされます。本記事では、この加算の中身と、申請でつまずかないためのチェックリストを、厚生労働省の一次資料に沿って整理します。
この記事でわかること
- 2026年(令和8年)4月8日に新設された「情報公表加算」の金額と対象
- 正社員化コースの支給額・加算の全体像(早見表)
- 公表先は自社HPと「しょくばらぼ」のどちらを選ぶべきか
- 着手前から支給申請までのチェックリスト12項目
- 関西の中小企業が同時に見ておくべき「最低賃金1,231円」との関係
2026年4月8日、正社員化コースに「情報公表加算」が新設された
キャリアアップ助成金は、有期雇用労働者・短時間労働者・派遣労働者といった非正規雇用の方を、正社員化したり処遇を改善したりした事業主に支給される、厚生労働省の雇用関係助成金です。返済は不要です。
その中心にあるのが「正社員化コース」。ここに令和8年4月8日付けで加わったのが情報公表加算です。厚生労働省のキャリアアップ助成金のご案内(令和8年度版)には、こう書かれています。
正規雇用労働者への転換等に係る所定の情報を自ら管理するウェブサイトまたは職場情報総合サイト(しょくばらぼ)に公表した場合に加算 / 1事業所当たり20万円(大企業の場合、15万円)
ポイントは3つです。
- 「1人当たり」ではなく「1事業所当たり」の加算である
- 公表先は自社サイトでも国のサイトでもよい(どちらか一方で足りる)
- 単独では申請できず、正社員化コース本体の申請にひもづく上乗せである
設備投資も、新しいシステムの導入も必要ありません。「すでにやっている正社員転換を、外から見える形にする」だけで金額が変わる、という設計になっています。
いくらになるのか|正社員化コースの支給額・加算 早見表
まず本体部分です。金額は、対象者が「重点支援対象者」に該当するかどうかで倍近く変わります。
転換のパターン | 重点支援対象者(中小) | それ以外(中小) |
|---|---|---|
有期 → 正規 | 80万円 | 40万円 |
無期 → 正規 | 40万円 | 20万円 |
重点支援対象者とは、おおむね次のいずれかに当てはまる方です。
- 雇入れから3年以上の有期雇用労働者
- 雇入れから3年未満で、過去5年間に正規雇用だった期間が1年以下、かつ過去1年間に正規雇用として雇用されていない有期雇用労働者
- 派遣労働者、母子家庭の母等、人材開発支援助成金の特定訓練修了者
そのうえで、1事業所単位の加算が重なります。
加算の種類 | 中小企業 | 大企業 |
|---|---|---|
正社員転換等制度を新たに規定し、当該区分に転換した場合 | 20万円 | 15万円 |
多様な正社員制度(勤務地限定・職務限定・短時間正社員)を新たに規定 | 40万円 | 30万円 |
情報公表加算(2026年4月8日新設) | 20万円 | 15万円 |
「制度を新たにつくって、パートを1人正社員にして、その事実を公表した」という中小企業なら、本体+制度新設加算+情報公表加算という積み上がり方になります。加算の適用回数や上限、対象となる取組日には条件があるため、金額の断定は避け、必ず管轄の労働局に確認してください。全体像は厚生労働省|キャリアアップ助成金のページに一次情報がまとまっています。
なお、正社員化そのものの基本的な進め方はキャリアアップ助成金2026|正社員化で最大80万円・中小企業の申請5ステップで解説しています。本記事はその続編として、加算にしぼって掘り下げます。
公表先は2つ|自社ホームページと「しょくばらぼ」の使い分け
情報公表加算の公表先は、「自ら管理するウェブサイト」または「職場情報総合サイト(しょくばらぼ)」のいずれかです。どちらを選ぶかで手間も、その後の効き方も変わります。
ルート1:自社で管理するホームページに公表する
自社サイトを持っている企業なら、こちらが最短です。自分たちで文面を決められ、公開日も自分で決められます。更新履歴が残る形(ブログ・お知らせ欄など)で出しておくと、公表した事実を証拠として示しやすくなります。
加えて、自社サイトでの公表には副次的な効果があります。「非正規から正社員に登用した実績がある会社」だと外部から見えるようになるため、求人に応募するかどうか迷っている人の判断材料になります。求職者は求人票の条件だけでなく、入社後にどうなるのかを見ています。
逆にいうと、自社サイトを何年も更新していない企業ほど、この加算は取りにくいのが実情です。「公表する場所が実質的にない」状態だからです。
ルート2:しょくばらぼに公表する
しょくばらぼは厚生労働省が運営する職場情報の総合サイトで、残業時間・有給取得率・研修制度といった職場情報を企業横断で比較できます。利用は無料です。
「女性の活躍推進企業データベース」「両立支援のひろば」「若者雇用促進総合サイト」のいずれかに登録済みなら、その情報が自動的にしょくばらぼへ連携されます。未登録の場合は、企業の方向け利用方法のページから利用者申請を行います。
注意したいのは時間です。同ページには、申請内容の審査に数日を要すること、情報の入力から掲載まで5営業日ほどかかる場合があることが明記されています。締切間際に動くと間に合いません。
どちらを選ぶか
- 自社サイトを日常的に更新している→ ルート1が早い。求人効果も見込める
- サイトが古い/更新できる人がいない→ ルート2で確実に。並行してサイトの整備を検討
- 採用に本気で投資している→ 両方。しょくばらぼで検索され、自社サイトで詳しく読ませる導線ができる
なお、公表すべき「所定の情報」の具体的な項目や様式は年度の支給要領で定められています。文面を書く前に、キャリアアップ助成金Q&A(令和8年度版)と管轄労働局の案内で、必ず最新の指定内容を確認してください。
【保存版】情報公表加算・申請前チェックリスト12項目
助成金は「制度を知らなかった」より「順番を間違えた」で落ちます。着手前から支給申請まで、時系列で確認していきます。
STEP1/着手する前に(ここが最重要)
- □ 1. キャリアアップ計画を提出したか 各コースの実施日の前日までに、労働組合等の意見を聴いたうえで作成・提出が必要です。転換した後に出しても認められません。
- □ 2. 対象者が「重点支援対象者」に当たるか確認したか 雇入れ日と、過去5年間の雇用形態がわかる書類を先に揃えます。ここで支給額が倍近く変わります。
- □ 3. 就業規則等に正社員転換制度が規定されているか 規定がなければ改定が先。新たに規定して転換すれば、それ自体が加算対象になります。
- □ 4. 転換前6か月の賃金台帳が整っているか 後述の「3%以上の増額」は、転換前6か月との比較で判定されます。
STEP2/公表の準備(情報公表加算のための実務)
- □ 5. 公表先を決めたか 自社サイトか、しょくばらぼか。しょくばらぼなら審査・掲載までの日数を逆算します。
- □ 6. 公表すべき項目を支給要領・Q&Aで確認したか 自己流の文面では要件を満たさない可能性があります。
- □ 7. 公表した事実を証拠として残せるか 公開URL、公開日、画面のスクリーンショットを保存しておきます。
- □ 8. 対象となる転換日が2026年4月8日以降か 新設された加算のため、それ以前の取組は対象になりません。
STEP3/転換後6か月
- □ 9. 転換後6か月の賃金を、転換前6か月と比べて3%以上増額したか ここを外すと本体ごと不支給になります。手当の付け方・計算方法は事前に確認を。
- □ 10. 実際にその賃金を支払い終えたか 「規定した」ではなく「支払った」実績が必要です。
STEP4/支給申請
- □ 11. 期限内に申請したか 取組後6か月分の賃金を支払った日の翌日から起算して2か月以内です。1日でも過ぎると受け付けられません。
- □ 12. 厚労省の支給申請チェックリストで最終確認したか 厚生労働省が支給申請チェックリスト(令和8年4月8日以降に取組を行った場合)を公開しています。提出前に必ず突き合わせてください。
「採用してからでは遅い」理由は、STEP1の1〜3に集約されています。詳しくは雇用助成金の落とし穴|中小企業が「採用してから」では遅い理由もあわせてご覧ください。
関西の中小企業が同時に見ておくべき「最低賃金1,231円」
この加算を「今」検討すべき理由は、賃金環境が動いているからです。
厚生労働省は令和8年7月28日、令和8年度地域別最低賃金額改定の目安を公表しました。引上げ額の目安はAランク54円、Bランク56円、Cランク56円。仮に目安どおりに改定されれば全国加重平均は1,176円、上昇額は55円(引上げ率4.9%)となる見込みです。
大阪府はAランクで、答申額は時給1,231円(2026年10月1日適用見込み)。京都・兵庫・奈良・和歌山・滋賀はBランクで、目安は56円です。
ここで押さえておきたいのは、正社員化コースの支給要件が「転換後6か月の賃金を、転換前6か月と比べて3%以上増額すること」だという点です。最低賃金の引上げで、パート・アルバイトの時給はどのみち上がります。どうせ上げる原資なら、正社員化とセットで設計したほうが助成の対象になり得る——これが、いま経営者が考えるべき順番です。
ただし、最低賃金の引上げによる自然増と、助成金が求める3%増額が同じものとして扱えるとは限りません。この線引きは実務で最も判断が分かれるところなので、必ず事前に専門家か労働局に確認してください。
助成金と補助金の違いなど、そもそもの前提を押さえたい方は助成金と補助金の違いとは?返済不要の雇用助成金を採用時に活かす5ステップをご覧ください。
よくある3つのつまずき
つまずき1:先に転換してしまう
最も多い失敗です。キャリアアップ計画の提出は、取組の実施日の前日まで。「正社員にしてから助成金を調べた」時点で、その1人分は対象外になります。年度末や決算期の駆け込み転換で起こりがちです。
つまずき2:公表のタイミングが遅れる
しょくばらぼは、審査に数日、掲載までさらに5営業日ほどかかることがあります。自社サイトも、更新を外部に依頼している場合は着手から公開まで日数がかかります。公表は「思い立ってすぐできる作業」ではないと考えて、余裕を持って動いてください。
つまずき3:3%増額の計算を誤る
賞与や諸手当をどう扱うかで、3%に届いたつもりが届いていなかった、という例があります。転換前後の賃金台帳を並べて、支給申請前に必ず検算してください。不支給になるだけでなく、要件を満たさない申請を繰り返せば審査にも時間がかかります。
まとめ
- 2026年4月8日、キャリアアップ助成金・正社員化コースに情報公表加算(中小企業20万円/1事業所)が新設された
- 公表先は自社で管理するウェブサイトまたはしょくばらぼのいずれか
- 単独では申請できず、正社員化コース本体の申請にひもづく上乗せ
- 順番が命。キャリアアップ計画の提出 → 就業規則の整備 → 転換 → 6か月の賃金支払い(3%以上増額) → 2か月以内に申請
- 最低賃金は令和8年度も上がる(大阪府は1,231円)。賃上げの原資を正社員化とセットで設計すると、制度に乗せやすい
- 金額・要件・締切は改定が多いため、着手前に必ず一次情報と労働局で確認する
よくある質問(FAQ)
Q1. 情報公表加算だけを単独で申請できますか?
できません。正社員化コース本体の支給申請にともなう加算です。まず本体の要件(キャリアアップ計画の提出、就業規則等の整備、転換、転換後6か月の賃金3%以上増額)を満たすことが前提になります。
Q2. 自社のホームページがありません。それでも取れますか?
しょくばらぼへの公表という選択肢があります。国が運営するサイトで、利用は無料です。ただし掲載までに日数がかかるため、早めの手続きが必要です。
Q3. 公表は毎年しなければいけませんか?
公表の継続期間や更新の要否は支給要領で定められています。年度によって取扱いが変わることがあるため、最新のQ&Aと管轄労働局の案内で確認してください。
Q4. パートを正社員にすると社会保険料が増えて、かえって負担になりませんか?
短期的なコストは確かに増えます。一方で助成金は返済不要で、正社員化コースは事業所ごとに複数名まで使えるプランがあります。定着率や採用力への影響も含めて、数年単位で試算するのが現実的です。個別の判断は自社の人員計画と資金繰りを踏まえて行ってください。
Q5. 大阪府独自の上乗せ制度はありますか?
雇用関係助成金は国(厚生労働省)の制度が中心ですが、自治体が独自の支援策を用意している場合があります。時期によって募集状況が変わるため、大阪府・大阪市の公式サイトで最新の募集要項をご確認ください。
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参考文献・出典
- 厚生労働省|キャリアアップ助成金(2026年8月25日参照)
- 厚生労働省|キャリアアップ助成金のご案内(令和8年度版・令和8年4月8日)(2026年8月25日参照)
- 厚生労働省|支給申請チェックリスト(令和8年4月8日以降に取組を行った場合)(2026年8月25日参照)
- 厚生労働省|キャリアアップ助成金Q&A(令和8年度版・令和8年7月29日改訂)(2026年8月25日参照)
- 厚生労働省|令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について(令和8年7月28日)(2026年8月25日参照)
- 厚生労働省 職場情報総合サイト しょくばらぼ|企業の方向け利用方法(2026年8月25日参照)
- Googleトレンド(日本/過去30日間・過去7日間)で「キャリアアップ助成金」「雇用助成金」「助成金」の推移および関連キーワード(「キャリアアップ助成金 チェックリスト」「最低賃金2026」等)を確認(2026年8月25日参照)
※本記事は2026年8月25日時点の公開情報にもとづいています。助成金の金額・要件・締切は改定される場合があります。実際の申請にあたっては、必ず管轄の都道府県労働局・ハローワークまたは専門家にご確認ください。




