「請求書はメールで受け取っているけれど、印刷してファイルに綴じているから問題ない」。もし総務や経理でこう考えているなら、2026年は一度立ち止まって確認したほうがよいかもしれません。
電子帳簿保存法(電帳法)は、2024年1月から「電子取引データの電子保存」が義務化され、2026年は税務調査での確認がより現実的なテーマになっています。とはいえ、中小企業がすべてを高度なシステムで対応する必要はありません。
この記事では、制度の全体像、見落としがちな「猶予措置の落とし穴」、そして今日から着手できる5ステップを、専門用語をかみくだいて解説します。
この記事でわかること
- 電子帳簿保存法の3つの区分と、唯一「義務」なのはどれか
- 2026年に注意したい「猶予措置」の落とし穴(相当の理由)
- 売上5,000万円以下の会社が受けられる要件の緩和
- 今すぐできる対応5ステップと、ペーパーレス化によるコスト削減効果
電子帳簿保存法とは?まず3つの区分を押さえる
電子帳簿保存法は、帳簿や書類を電子データで保存するためのルールを定めた法律です。ニュースでは「電帳法」と略され、内容が複雑に見えますが、まずは大きく3つの区分に分けて理解すると整理できます。
区分 | 対象の例 | 対応 |
|---|---|---|
①電子帳簿等保存 | 会計ソフトで作成した帳簿・決算書類 | 任意 |
②スキャナ保存 | 紙で受け取った請求書・領収書をスキャンして保存 | 任意 |
③電子取引データ保存 | メールやWebでやり取りした請求書・領収書などのデータ | 義務 |
ここで最も大切なのは、「義務」なのは③の電子取引データ保存だけという点です。①と②はあくまで任意で、「紙をやめて電子化してもよい」という選択肢を広げる制度にすぎません。まず守るべきは③に絞る、と考えると着手しやすくなります。
「電子取引」とは何か
電子取引とは、紙を介さずデータでやり取りした取引を指します。具体的には、メール添付で届いたPDFの請求書、Web上でダウンロードする領収書、クラウドサービスやECの購入明細、EDIでの受発注データなどです。
2024年1月1日以後、これらの電子取引データは紙に印刷して保存するのではなく、データのまま保存することが原則として義務づけられました。「受け取ったPDFを印刷して原本として保管し、データは消す」という運用は、原則として認められません。
2026年の「猶予措置」に潜む落とし穴
「猶予措置があるから、まだ紙のままで大丈夫」——この理解が、2026年のいちばんの落とし穴です。猶予措置は確かに存在し、現時点で明確な期限は定められていません。しかし、無条件で紙保存が許されるわけではないという点が抜け落ちがちです。
猶予措置の適用を受けるには、次の3つが必要とされています。
- 保存要件どおりに保存できない「相当の理由」があると、所轄の税務署長に認められること
- 税務調査の際、電子取引データのダウンロードの求めに応じられること
- 整然とした形・明瞭な状態で、書面(プリントアウト)の提示・提出に応じられること
つまり猶予措置とは「紙だけでよい」ではなく、「データも残しつつ、当面は厳格な保存要件を満たせなくてもよい」という位置づけです。データを一切残していない状態は、猶予措置の前提から外れてしまいます。
ポイント:猶予措置は「データを捨ててよい」ではなく「データは残す。要件は当面ゆるめてよい」。ここを取り違えると、調査時に対応できません。
さらに2026年は、「相当の理由」の判断が以前より問われやすくなっているとされます。「人手やシステムの準備が間に合わない」といった事情は認められ得ますが、恒久的な免除ではありません。少しずつでも電子保存へ移行しておくことが、結果的にいちばんの安全策になります。
中小企業ほど要件はゆるい|売上5,000万円以下の緩和
「高価なシステムを入れないと対応できないのでは」と身構える必要はありません。会社の規模によって、求められるハードルは変わります。
検索要件は売上5,000万円以下なら不要
電子取引データの保存では本来、「取引年月日・取引金額・取引先」で検索できるようにする検索要件が求められます。しかし、基準期間の売上高が5,000万円以下の事業者は、税務調査時にデータのダウンロードの求めに応じられることを前提に、この検索機能の要件がすべて不要になります。多くの中小企業はこの範囲に収まります。
真実性の確保|タイムスタンプは必須ではない
保存データが改ざんされていないこと(真実性の確保)も求められますが、方法は一つではありません。タイムスタンプの付与だけでなく、「訂正・削除の防止に関する事務処理規程」を定めて運用する方法でも要件を満たせます。規程は国税庁がひな形を公開しており、中小企業はまずこの方法から始めるのが現実的です。
スキャナ保存の要件も緩和されている
紙で受け取った書類をスキャンして保存する②スキャナ保存も、近年の改正で要件が緩和され、タイムスタンプや検索の要件が以前より取り組みやすくなっています。義務ではありませんが、紙の保管コストを減らしたい会社にとっては有効な選択肢です。
今すぐできる対応5ステップ
完璧を目指さず、まず「③電子取引データを、要件に沿ってデータのまま残す」流れをつくることが最優先です。
- 電子取引の棚卸し:メール添付の請求書、Web領収書、クラウド購入明細など、データで受け取っている書類を洗い出します。
- 保存場所を一つに決める:社内共有フォルダやクラウドストレージなど、保存先を一元化します。担当者ごとにバラバラだと、調査時に探せません。
- ファイル名のルールを決める:「日付_取引先_金額(例:20260715_〇〇商事_55000)」のように統一すると、検索要件が必要な場合も対応しやすくなります。
- 事務処理規程を整える:国税庁のひな形をもとに、訂正・削除防止の規程を作成し、真実性の確保に備えます。
- 会計ソフト・スキャナ保存へ段階的に拡大:まず③を固めたうえで、余力が出たらクラウド会計やスキャナ保存に広げ、紙そのものを減らしていきます。
ペーパーレス化は「守り」と「コスト削減」を同時にかなえる
電帳法対応は法令順守という「守り」ですが、あわせてペーパーレス化を進めると、印刷・保管・検索にかかるコストの削減という「攻め」の効果も得られます。
中小企業基盤整備機構の2023年の調査では、DXへの取り組みが必要だと考える中小企業は7割を超える一方、実際に取り組めている企業は3割程度にとどまるとされています。裏を返せば、着手するだけで多くの同業より一歩先へ進めるということです。
コスト面の効果も見過ごせません。あるクラウド会計のメディアでは、毎月3,000枚を印刷する企業が資料の半分を電子化できれば、印刷代だけで年間およそ36万円の削減になるという試算が紹介されています(あくまで一例です)。近年はAI-OCR(請求書・領収書の文字認識)と自動仕訳を組み合わせ、入力作業を大きく減らす運用も広がっています。
- 印刷・用紙・トナー・郵送などの直接コスト削減
- 書類を探す時間の短縮による、経理・総務の業務効率化
- 保管スペースや外部倉庫の圧縮
- テレワークや複数拠点での書類共有のしやすさ
よくある失敗と対策
失敗1:データを印刷して原本にし、元データを削除 → 電子取引はデータ保存が原則です。元データを残す運用に切り替えましょう。
失敗2:担当者ごとに保存場所がバラバラ → 保存先を一元化し、フォルダ構成とファイル名を統一します。
失敗3:「猶予措置があるから」と何もしない → 猶予措置はデータ保存が前提です。少量でもデータで残す運用を今日から始めます。
まとめ
電子帳簿保存法で中小企業がまず守るべきは、③電子取引データをデータのまま保存することの一点です。猶予措置は「紙だけでよい」ではなく「データは残す」が前提であり、2026年は判断が厳しくなりつつあります。一方で、売上5,000万円以下なら検索要件は不要、真実性の確保も事務処理規程で対応できるなど、中小企業向けの緩和は手厚く用意されています。棚卸し→保存先の一元化→ファイル名ルール→事務処理規程→段階拡大の5ステップで、守りと同時にペーパーレスによるコスト削減も進めていきましょう。
よくある質問(FAQ)
Q. 紙で受け取った請求書も、必ず電子化しなければいけませんか?
A. いいえ。義務なのは「電子取引(データでやり取りした取引)」の保存です。紙で受け取った書類は紙のまま保存でき、電子化(スキャナ保存)は任意です。
Q. 猶予措置はいつまで使えますか?
A. 現時点で明確な期限は定められていません。ただし「相当の理由」と、データのダウンロード・書面提示への対応が前提です。恒久的な免除ではないため、早めの移行が安全です。
Q. タイムスタンプのサービスは契約が必須ですか?
A. 必須ではありません。訂正・削除の防止に関する事務処理規程を定めて運用する方法でも、真実性の確保の要件を満たせます。
Q. どの書類から手をつければよいですか?
A. まずはメール添付の請求書やWeb領収書など、件数の多い電子取引から始めるのが効率的です。少しずつ範囲を広げましょう。
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参考文献・出典
- 国税庁(電子帳簿保存法の一次情報) https://www.nta.go.jp/ 参照日:2026年7月15日
- BtoBプラットフォーム請求書(インフォマート)「電子帳簿保存法の義務化はいつから?猶予措置の条件を解説」 https://www.infomart.co.jp/seikyu/column/denchoho_when 参照日:2026年7月15日
- @DIME「2026年の電子帳簿保存法、猶予措置の現状と請求書の保管方法」 https://dime.jp/genre/2077801/ 参照日:2026年7月15日
- マネーフォワード クラウド「電子保存義務化と猶予期間(宥恕措置)を解説」 https://biz.moneyforward.com/accounting/basic/58065/ 参照日:2026年7月15日
- freee「ペーパーレス化が必要な理由とは?成功事例や推進のヒント」 https://www.freee.co.jp/kb/kb-trend/paperless/ 参照日:2026年7月15日
- Google トレンド(日本)「電子帳簿保存法」「ペーパーレス」過去7日間の推移・過去1か月の関連キーワードを参照 https://trends.google.com/ 参照日:2026年7月15日




