パート・契約社員を正社員に転換したいが、人件費の増加が不安で踏み切れない。キャリアアップ助成金の存在は知っているものの、制度が複雑で「結局うちは使えるのか」が分からない。2026年度は制度改正も重なり、情報が錯綜している——中小企業の経営者や人事担当者の多くが、まさにこの状況にあります。

本記事では、キャリアアップ助成金の基本から2026年度の最新変更点、正社員化コースの申請手順までを、実務で使えるレベルで解説します。 約20年にわたり関西エリアの中小企業の人材課題を支援してきた現場の知見をもとに、「申請前に知っておけば失敗を防げるポイント」も含めて整理しました。

この記事を読むと、以下のことが分かります。

  • キャリアアップ助成金の全6コースの概要と、自社に合ったコースの選び方
  • 2026年度の制度変更(情報開示加算の新設・社会保険適用時処遇改善コースの終了など)
  • 正社員化コースの申請手順と、審査で落ちないための実務上の注意点

それでは、具体的な内容を見ていきましょう。


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キャリアアップ助成金とは?制度の基本を30秒で理解する

キャリアアップ助成金とは、パート・アルバイト・契約社員・派遣社員などの非正規雇用労働者のキャリアアップを促進するため、正社員化や処遇改善に取り組んだ事業主に対して国が支給する助成金です。 厚生労働省が所管し、雇用保険適用事業所であれば業種を問わず申請できます。

中小企業にとってこの制度が重要な理由は、返済不要の資金を受け取りながら、従業員の定着率向上と労働環境の改善を同時に実現できる点にあります。

補助金と助成金の違い:申請前に押さえるべき前提

混同されがちな「補助金」と「助成金」は、性質が大きく異なります。

項目

助成金(キャリアアップ助成金など)

補助金(ものづくり補助金など)

所管

厚生労働省

経済産業省・中小企業庁

目的

雇用の安定・処遇改善

事業成長・設備投資

審査

要件を満たせば原則支給

採択審査あり(競争率30〜50%)

財源

雇用保険料

国の一般会計

申請時期

通年(随時)

公募期間内のみ

とくに重要なのは、助成金は要件を満たせば原則として受給できるという点です。補助金のように採択率に左右されないため、事前準備を正しく行えば確実性が高い制度です。

キャリアアップ助成金の全6コース一覧

2025年度時点で、キャリアアップ助成金は以下の6コースで構成されています。

コース名

概要

主な助成額(中小企業)

正社員化コース

非正規→正社員への転換

1人あたり最大80万円

賃金規定等改定コース

非正規の基本給を引き上げ

1人あたり最大7万円

賃金規定等共通化コース

正規・非正規共通の賃金テーブル導入

1事業所あたり60万円

賞与・退職金制度導入コース

非正規に賞与・退職金制度を新設

1事業所あたり最大56.8万円

社会保険適用時処遇改善コース

年収の壁対策(2026年3月末終了)

1人あたり最大50万円

短時間労働者労働時間延長支援コース

労働時間延長で社保適用

1人あたり最大75万円

なかでも正社員化コースは利用企業が最も多く、1人あたり最大80万円という助成額の大きさから、中小企業の人材戦略における中心的な制度となっています。


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2026年度の変更点|知らないと損する3つの制度改正

2026年度(令和8年度)は、キャリアアップ助成金に複数の重要な変更が予定されています。概算要求段階の情報を含むため、申請時は必ず厚生労働省の最新情報を確認してください。

変更点①:「情報開示加算」が新設される

2026年度の最大の注目点は、非正規雇用労働者の情報開示加算の新設です。

項目

内容

加算額(中小企業)

1事業所あたり20万円

加算額(大企業)

1事業所あたり15万円

条件

非正規労働者の労働条件等を厚労省「しょくらぼ」等で公表

回数

1事業所につき1回のみ

これは、企業の人的資本経営の推進という政府方針を反映した新しい取り組みです。正社員化コースと併用すれば、1人あたり最大80万円+情報開示加算20万円=最大100万円の受給も視野に入ります。

変更点②:社会保険適用時処遇改善コースが2026年3月末で終了

「年収の壁」対策として2023年10月に創設された社会保険適用時処遇改善コースは、2026年3月31日をもって終了する暫定措置です。

ただし、その受け皿として2025年7月に新設された**「短時間労働者労働時間延長支援コース」**が継続しています。小規模事業主であれば1人あたり最大75万円の受給が可能です。

変更点③:賃上げ・処遇改善との連動がさらに強化

2026年度の概算要求(554億円)では、正社員化時の**「賃金3%以上引き上げ」を重視する方向性**が明確になっています。最低賃金の全国加重平均が1,121円(過去最大の66円引き上げ)となった流れを受け、賃上げと助成金をセットで活用する設計が政策の柱になっています。

年度

全国加重平均最低賃金

前年比

2023年度

1,004円

+43円

2024年度

1,055円

+51円

2025年度

1,121円

+66円(過去最大)

帝国データバンクの2026年1月調査によると、2026年に賃上げを予定している中小企業は63.5%(過去最高)。賃上げの原資確保手段として、助成金の戦略的な活用が一層重要になっています。

正社員化コースの申請手順|5つのステップで迷わない

正社員化コースは、キャリアアップ助成金のなかで最も利用件数が多いコースです。ここでは申請の流れを5つのステップに分解して解説します。

ステップ1:キャリアアップ計画書を届け出る

正社員化を実施する前日までに、管轄の労働局にキャリアアップ計画書を届け出る必要があります。

2025年度から手続きが簡素化され、従来必要だった労働局長の「認定」が不要になりました。「届出」のみで手続きが完了します。

計画書に記載する内容は以下の通りです。

  • 対象者(正社員化する予定の従業員)
  • 目標(正社員化の人数・時期)
  • 期間(計画の実施期間)
  • 目標達成のための取り組み内容

ステップ2:就業規則に正社員転換制度を規定する

正社員化コースを利用するには、就業規則(または労働協約)に**「非正規雇用から正規雇用への転換制度」が明記**されていなければなりません。

具体的には、以下の内容を就業規則に盛り込みます。

  • 転換の対象者(例:勤続6か月以上の契約社員)
  • 転換時期(例:毎年4月・10月の年2回)
  • 転換の手続き(例:本人の申出→面接→合否通知)
  • 転換後の労働条件(賃金・勤務時間・休日等)

ステップ3:対象者を正社員に転換する

就業規則の規定に基づき、対象者を正社員に転換します。このとき、転換後の賃金を転換前と比較して3%以上引き上げることが支給要件です。

ここが実務上最も注意が必要なポイントです。「3%以上」の計算には、基本給や諸手当の取り扱いに細かなルールがあります。

ステップ4:転換後6か月間の賃金を支払う

正社員転換後、6か月分の賃金を実際に支払った後に申請が可能になります。転換しただけでは申請できません。

助成金は2期に分けて支給されます。

  • 第1期:転換後6か月の賃金支払い後に申請 → 40万円
  • 第2期:転換後12か月の賃金支払い後に申請 → 40万円
  • 合計:最大80万円(重点支援対象者の場合)

ステップ5:支給申請書を労働局に提出する

第1期の賃金支払い完了後、2か月以内に支給申請書類一式を管轄の労働局に提出します。

主な提出書類は以下の通りです。

  • 支給申請書
  • 転換前後の雇用契約書(写し)
  • 転換前後の賃金台帳(写し)
  • 出勤簿またはタイムカード(写し)
  • 就業規則(転換制度が記載されたもの)
  • キャリアアップ計画書(届出済みのもの)

正社員化コースの支給額|「重点支援対象者」で金額が変わる

2025年度から「重点支援対象者」の区分が導入され、対象者の属性によって支給額が異なります。

転換パターン

重点支援対象者

通常の対象者

有期雇用 → 正社員

80万円(40万円×2期)

40万円(20万円×2期)

無期雇用 → 正社員

40万円(20万円×2期)

20万円(10万円×2期)

重点支援対象者とは、雇用された期間が通算3年以上の有期雇用労働者や、特定の条件に該当する労働者を指します。なお、雇用期間が通算5年を超える有期雇用労働者は無期雇用労働者とみなされます。

さらに、以下の場合は加算が受けられます。

  • 多様な正社員制度の新規導入:勤務地限定・職務限定・短時間正社員のいずれかの制度を新たに設けた場合、1事業所あたり40万円を加算
  • 人材開発支援助成金の訓練修了後に正社員転換:1人あたり9.5万円〜11万円を加算

現場で実際に起きた「落とし穴」3選

助成金の制度を理解していても、実務レベルでは想定外の問題が発生することがあります。約20年にわたり中小企業の助成金活用を支援してきたなかで、とくに多い失敗パターンを3つ紹介します。

落とし穴①:キャリアアップ計画書の届出が転換日に間に合わない

最も多い失敗が、計画書の届出タイミングのミスです。 計画書は正社員転換日の「前日まで」に届け出なければなりません。「転換を決めてから計画書を出せばいい」と考えて後回しにした結果、届出が間に合わず全額不支給になるケースがあります。

対策は明確で、転換予定日の最低1か月前には計画書を提出しておくことです。届出制に簡素化されたとはいえ、労働局側の受理処理にも時間がかかります。

落とし穴②:「3%以上の賃金引き上げ」の計算方法を誤る

転換後の賃金が転換前と比較して3%以上アップしていなければ、支給要件を満たしません。この計算で注意すべきは、基本給と対象手当の範囲が厳密に定められている点です。

通勤手当や時間外手当は原則として計算に含まれません。「手取り額は上がっているのに、計算上は3%に届いていなかった」という事態が実際に発生しています。

落とし穴③:転換後に対象者が離職してしまう

正社員転換後、6か月分の賃金を支払い終える前に対象者が退職すると、助成金は支給されません。転換すること自体がゴールではなく、定着させることまでが要件です。

転換後の労働条件やキャリアパスを事前に丁寧に説明し、本人の納得を得たうえで転換を進めることが、結果的に助成金の受給確率を高めます。


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よくある質問(FAQ)

Q1. キャリアアップ助成金はどんな企業でも申請できますか?

雇用保険適用事業所であれば、業種・規模を問わず申請できます。飲食店・小売店・製造業・サービス業など幅広い業種で利用実績があります。ただし、各コースごとに細かな要件が定められているため、事前に管轄の労働局または専門家に確認することを推奨します。

Q2. パート・アルバイトでも正社員化コースの対象になりますか?

はい、対象になります。有期雇用労働者(契約社員・パート・アルバイト)や派遣労働者が正社員に転換した場合に申請可能です。ただし、新卒で雇用された非正規労働者は入社から1年間は対象外となります。

Q3. 申請から支給までどのくらいの期間がかかりますか?

正社員化コースの場合、正社員転換後6か月分の賃金を支払い、その後支給申請を行ってから、概ね3〜6か月程度で第1期分が支給されます。労働局の審査状況により前後します。

Q4. 1社で何人まで申請できますか?

正社員化コースには、1年度あたり1事業所20人までの上限があります。複数名の転換を計画している場合は、年度をまたいで段階的に進めることも可能です。

Q5. 助成金を受け取った後に返還を求められることはありますか?

虚偽の申請や、支給要件を満たしていないことが後日判明した場合、返還を求められる可能性があります。不正受給が認定されると、受給額の返還に加え、延滞金やペナルティが課され、以後5年間はすべての雇用関係助成金が申請不可となります。正確な書類作成と要件の遵守が極めて重要です。

Q6. 社労士に依頼しなくても自社で申請できますか?

制度上は自社での申請も可能です。ただし、就業規則の整備・賃金計算の適正性確認・書類作成など専門的な知識を要する工程が多く、不備があると不支給になるリスクがあります。とくに初めての申請や複数名を同時に転換する場合は、社会保険労務士や助成金の専門家に相談することで確実性が高まります。

Q7. 2026年度の変更点はいつから適用されますか?

キャリアアップ助成金は例年4月に制度改定が行われます。2026年度の変更点(情報開示加算の新設等)は、概算要求段階の情報を含むため、正式な内容は厚生労働省の発表を確認してください。

まとめ|キャリアアップ助成金を活用するために今やるべきこと

本記事の要点を3つに絞ります。

  1. キャリアアップ助成金は、要件を満たせば原則支給される確実性の高い制度。 正社員化コースでは1人あたり最大80万円を受給でき、中小企業の人材投資の強力な後押しになる
  2. 2026年度は「情報開示加算」の新設や一部コースの終了など、制度変更が多い。 最新情報を確認し、変更に対応した申請計画を立てることが受給額の最大化につながる
  3. 申請の最大の敵は「準備不足」。 キャリアアップ計画書の届出タイミング、賃金引き上げの計算方法、就業規則の整備——いずれも事前準備で防げる失敗ばかり

次にやるべきことは、自社の非正規雇用の状況を棚卸しし、正社員化の候補者と時期を具体的にリストアップすることです。そのうえで、申請要件に漏れがないかを専門家に確認すれば、受給への道筋が明確になります。


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執筆者:有限会社リールゲイト 人材サポート事業部

カルチャーテック・プロデュースカンパニーとして2003年に設立。もともと調理師の人材紹介会社として出発し、約20年にわたり関西エリア(大阪・兵庫・京都・奈良・滋賀・和歌山)の中小企業の「人」に関する課題を解決。助成金カウンセリングでは、返済不要の助成金制度を活用し、年間250〜300万円の獲得を目標に、申請書類の作成から提出まで初回相談無料・成功報酬型でトータルサポートしています。

※本記事の制度情報は2026年3月時点のものです。2026年度の変更点は概算要求段階の情報を含みます。申請にあたっては、必ず厚生労働省の最新の公式情報をご確認ください。