パートさんの社会保険加入をめぐる助成金が、2026年に入って静かに入れ替わりました。以前あった「社会保険適用時処遇改善コース」は2026年3月31日で終了し、いまはキャリアアップ助成金の「短時間労働者労働時間延長支援コース」が受け皿になっています。
助成額は労働者1人につき最大75万円。金額だけ見れば大きな制度ですが、実務でつまずくのはほぼ一点です。キャリアアップ計画書を「社会保険の加入日の前日まで」に出しておかないと、あとからはさかのぼれません。
10月1日から社会保険に加入させる予定があるなら、期限は9月30日。この記事では、制度の入れ替わり・支給額の内訳・対象者の条件・提出スケジュールを、厚生労働省の一次情報をもとに整理します。
この記事でわかること
- 「年収の壁」対応の助成金が2026年にどう入れ替わったか
- 短時間労働者労働時間延長支援コースで最大75万円になる条件と内訳
- 対象になる労働者の2つの要件
- 計画書の提出期限と、申請までのスケジュール
- 「106万円の壁 撤廃」がいつからなのか、現時点で確定していること
「年収の壁」の助成金は、2026年3月で入れ替わっている
結論から言うと、名前が変わっただけではなく制度そのものが別のコースに移っています。少し前の解説記事を読んで「社会保険適用時処遇改善コース」で準備を進めていた場合、いまの申請様式では受け付けられません。
終了したのは「社会保険適用時処遇改善コース」
このコースは2023年10月にスタートした時限措置で、2026年3月31日をもって終了しました。いわゆる「年収の壁・支援強化パッケージ」の中心にあった制度です。
いま使えるのは「短時間労働者労働時間延長支援コース」
後継にあたるのが、2025年7月1日に新設されたキャリアアップ助成金の短時間労働者労働時間延長支援コースです。令和8年度(2026年度)のキャリアアップ助成金は、正社員化コース・障害者正社員化コース・賃金規定等改定コース・賃金規定等共通化コース・賞与退職金制度導入コース・短時間労働者労働時間延長支援コースの6コース構成になっています。
制度の考え方は前のコースと同じで、「短時間労働者を新たに社会保険に加入させ、あわせて労働時間の延長などで手取りを増やす」取り組みに助成するものです。厚生労働省のリーフレットでは、旧コースの計画届をすでに提出している事業主は本コースの計画届を改めて出す必要がないこと、旧コースの併用メニューを進めていた場合も要件を満たせば切り替え申請ができることが明記されています。
旧コースで準備していた会社ほど「もう出したから大丈夫」と思いがちですが、逆にまだ計画届を出していない会社には、加入日の前日という期限が新たに発生します。ここが今いちばん見落とされている点です。
最大75万円の内訳|1年目と2年目に分かれている
「最大75万円」は一度に出る金額ではありません。1年目の取り組みと2年目の取り組みで分かれており、企業規模によっても額が変わります。以下は令和8年4月版リーフレットに記載された支給額です。
1年目の取り組み(労働者1人あたり)
週所定労働時間の延長 | 賃金の増額 | 小規模企業 | 中小企業 | 大企業 |
|---|---|---|---|---|
5時間以上 | 要件なし | 50万円 | 40万円 | 30万円 |
4時間以上5時間未満 | 5%以上 | 50万円 | 40万円 | 30万円 |
3時間以上4時間未満 | 10%以上 | 50万円 | 40万円 | 30万円 |
2時間以上3時間未満 | 15%以上 | 50万円 | 40万円 | 30万円 |
2年目の取り組み(労働者1人あたり)
取り組み内容 | 小規模企業 | 中小企業 | 大企業 |
|---|---|---|---|
労働時間をさらに2時間以上延長、または基本給をさらに5%以上増額・昇給・賞与もしくは退職金制度の適用 | 25万円 | 20万円 | 15万円 |
ここでいう小規模企業とは、常時雇用する労働者の数が30人以下の事業主を指します。大阪の飲食・小売・介護・クリニックのように、パートやアルバイトが戦力の中心で従業員数が30人以下という会社は珍しくありません。そうした規模の会社こそ、1人あたり50万円+25万円=75万円という上限に届きやすい設計になっています。
なお、複数年かけて週所定労働時間の延長に取り組む形も認められています。「いきなり週5時間は増やせない」という現場でも、段階的に進める前提で計画を組めます。
対象になる「人」の条件は2つだけ
制度の説明は複雑に見えますが、対象労働者の判定はシンプルです。厚生労働省のリーフレットでは、次の両方に該当する人が対象とされています。
- 社会保険の加入日の6か月前の日以前から継続して雇用されている
- 社会保険の加入日から過去2年以内に、同じ事業所で社会保険に加入していなかった
裏を返すと、これから採用する人は対象になりません。すでに半年以上働いてくれているパートさんが対象です。「助成金は採用とセットで考えるもの」という感覚でいると、この制度は視界から外れてしまいます。まずは在籍者リストを見て、勤続6か月以上で社会保険に未加入の短時間労働者が何人いるかを数えるところから始まります。
そのうえで、事業主側の取り組みとして次のいずれかが必要です。
- 社会保険の加入日前1か月以内に週所定労働時間を延長し、新たに社会保険に加入させる
- 社会保険の加入日から2か月以内に週所定労働時間を延長する
助成金に共通する考え方として、制度を選んでから動くのではなく、雇用環境を先に整えておくほど選択肢が広がります。この点は助成金は制度選びが先ではない|雇用助成金に共通する要件と必要書類で整理していますので、あわせてご覧ください。
いつまでに何をするか|計画書の提出期限が最大の落とし穴
この助成金でもっとも注意すべきなのがスケジュールです。厚生労働省のリーフレットには、次のように書かれています。
助成金を受けるには、事前にキャリアアップ計画書を都道府県労働局へ提出してください。本コースの場合、社会保険加入日の前日まで(令和8年10月1日加入の場合、同年9月30日まで)
つまり10月1日に社会保険へ加入させるなら、9月30日までに計画書が労働局に届いていなければなりません。取り組みそのものは立派でも、計画書が1日遅れれば支給額はゼロになります。助成金が「手続きの制度」と言われるのは、まさにこの構造のためです。
支給申請までの流れ
- キャリアアップ計画書の提出:社会保険加入日の前日まで(労働組合等の意見を聴いて作成)
- 取り組みの実施:加入日前1か月以内、または加入日から2か月以内に週所定労働時間を延長
- 6か月間の継続雇用:取り組み後、支給対象期として6か月
- 支給申請:支給対象期分の賃金を支給した日の翌日から起算して2か月以内
- 2年目の取り組み:さらに時間延長や賃上げ等を行い、2回目の支給申請へ
逆算すると、10月1日加入で動く場合は9月中に計画書、翌年4月ごろに1回目の支給申請というスケジュール感になります。申請から入金まではさらに時間がかかるため、資金繰りの当てにするのではなく「後から戻ってくる原資」として見ておくのが現実的です。
大阪府内の事業所の提出先
大阪府内に事業所がある場合、雇用関係助成金の窓口は大阪労働局助成金センターです。窓口や様式は年度ごとに変わるため、提出前に大阪労働局の助成金関係機関ページで最新の受付窓口を確認してください。
そもそも「新たに社会保険へ加入する人」はどこにいるのか
この助成金は、短時間労働者が新たに社会保険の被保険者になることが前提です。では、どういう人が新たに加入するのか。厚生労働省のリーフレットでは、被保険者の要件は次のいずれかとされています。
- フルタイム従業員の週の所定労働時間および月の所定労働日数の4分の3以上であること
- 従業員51人以上の企業等は、週の所定労働時間が20時間以上かつ所定内賃金が月額8.8万円以上であること(学生を除く)
ここで見落とされがちなのが、従業員50人以下の企業等でも、労使合意により短時間労働者が社会保険に加入する事業所(任意特定適用事業所)になれるという点です。「うちは50人以下だから関係ない」と判断してしまうと、使える制度を自分から外していることになります。
「106万円の壁 撤廃」はいつからか
Googleトレンドの関連キーワードでは、直近1か月で「106万円の壁 撤廃」「年収の壁 引き上げ いつから」「年収の壁 見直し どうなる」といった検索が急増しています。現時点で確定していることを整理すると、次のとおりです。
- 2025年6月に成立した年金制度改正法により、短時間労働者の適用要件のうち賃金要件(月額8.8万円=いわゆる106万円の壁)は撤廃されることが決まっています
- ただし撤廃の時期は法律の公布から3年以内で、全国の最低賃金の水準を見極めて政令で定めるとされており、日付が確定しているわけではありません
- 企業規模要件(現行51人以上)は、2027年10月1日から2035年10月1日にかけて段階的に撤廃される予定です
つまり方向性は「社会保険に加入する短時間労働者は今後増え続ける」で固まっており、いずれ全社が通る道を、助成金が出るうちに通るかどうかという話になります。制度の全体像は厚生労働省の「年収の壁」への対応ページに集約されています。
大阪の中小企業が今週やれる3つの準備
制度を読み込む前に、手を動かせることから始めるのが早道です。
- 在籍者の棚卸し:勤続6か月以上・社会保険未加入・週20時間前後の短時間労働者を書き出す。この時点で対象者が1人もいなければ、この制度は今回見送りで構いません。
- 本人の意向確認:週の労働時間を2〜5時間増やせるか、本人と話す。社会保険料の負担が増える一方で将来の年金や傷病手当金が手厚くなること、会社側が賃金増や時間延長で手取りを支える設計になっていることを、数字で示して説明します。
- 加入日を決めて逆算する:加入日が決まれば、計画書の期限は自動的に「その前日」と決まります。10月1日なら9月30日、11月1日なら10月31日です。
なお、最低賃金の改定と時間延長を同じタイミングで動かすと、賃金台帳の整合が取りづらくなることがあります。今年の改定については賃上げしても助成金が出ない理由|大阪の最低賃金1,231円・10月1日への備えで触れていますので、あわせて確認しておくと安全です。
また、同じキャリアアップ助成金でも、正社員化を目指すなら別コースのほうが金額は大きくなります。コースの使い分けはキャリアアップ助成金2026|正社員化で最大80万円・中小企業の申請5ステップもご覧ください。
まとめ
- 「年収の壁」対応の助成金は、社会保険適用時処遇改善コース(2026年3月31日終了)から短時間労働者労働時間延長支援コースへ移行している
- 助成額は労働者1人あたり最大75万円(小規模企業の場合、1年目50万円+2年目25万円)
- 対象は加入日の6か月前以前から継続雇用され、過去2年以内に同事業所で社会保険未加入だった短時間労働者
- 最大の落とし穴はキャリアアップ計画書の提出期限=社会保険加入日の前日
- 賃金要件(106万円の壁)の撤廃は決定済みだが、施行日は政令待ちで未確定
よくある質問(FAQ)
Q1. 社会保険適用時処遇改善コースで計画届を出しました。新しい計画書も必要ですか?
A. 厚生労働省のリーフレットでは、旧「社会保険適用時処遇改善コース」の計画届を提出している場合、本コースの計画届・変更届の提出は必要ないとされています。旧コースの併用メニュー等の取り組みを進めていた場合も、本コースの要件を満たすなら切り替えて申請できます。
Q2. これから採用するパートも対象になりますか?
A. なりません。対象は社会保険の加入日の6か月前の日以前から継続して雇用されている労働者です。新規採用に使える助成金は別にありますので、採用計画がある場合はそちらと分けて考えてください。
Q3. 「小規模企業」の判定基準は何人ですか?
A. 常時雇用する労働者の数が30人以下の事業主が小規模企業です。31人以上の中小企業は1年目40万円・2年目20万円、大企業は1年目30万円・2年目15万円となります。
Q4. 従業員50人以下ですが、そもそも社会保険の適用拡大の対象外では?
A. 現行制度では企業規模要件が51人以上ですが、50人以下の企業等も労使合意により短時間労働者が社会保険に加入する事業所になることができます。この場合も助成金の対象になり得ます。
Q5. 106万円の壁が撤廃されるまで待ったほうがよいですか?
A. 撤廃自体は年金制度改正法で決まっていますが、施行日は公布から3年以内で政令により定められるため、現時点では未確定です。また助成金は年度ごとに要件や金額が見直されるため、「待つ」ほど有利になるとは限りません。対象者がいるなら、要件が揃っている今のうちに計画書だけでも出しておくのが実務的です。
Q6. 申請してから入金までどれくらいかかりますか?
A. 取り組み後に6か月の支給対象期があり、その賃金支払日の翌日から2か月以内に支給申請、そこから審査という流れになります。審査期間は労働局の状況により変動するため、少なくとも1年程度の時間軸で見ておくのが安全です。
助成金の判断は、制度の比較より「自社に対象者がいるか」から
ここまで読んで「うちにも該当しそうだが、計画書の書き方も期限も自信がない」と感じた方へ。有限会社リールゲイトでは、返済義務のない雇用助成金の活用について、初回無料の助成金カウンセリングを行っています。約20年にわたって中小企業の助成金活用をお手伝いしてきました。
- 対象者がいるかの確認から:制度の比較ではなく、御社の在籍者リストを起点に、どの助成金なら現実的に届くかを整理します
- スタッフに関するプランが狙い目:教育する・雇用スタイルを見直す・賃金を改善する。助成金はスタッフ一人ひとりに支給される仕組みで、事業所ごとに年間最大20名まで使えるプランもあります
- 結果はその場で:お問い合わせ → 電話15分の簡単ヒアリング → 訪問またはZoomで60分のカウンセリング → 即日その場で結果をお伝えします
金額や要件は制度改定で変わります。「使えるのかどうか」を確かめるだけでも構いませんので、まずはご相談だけでもお気軽にどうぞ。
参考文献・出典
- 厚生労働省|キャリアアップ助成金(2026年9月11日参照)
- 厚生労働省|キャリアアップ助成金(短時間労働者労働時間延長支援コース)のご案内(リーフレット・令和8年4月版)(2026年9月11日参照)
- 厚生労働省|キャリアアップ助成金(短時間労働者労働時間延長支援コース)に関するQ&A(2026年9月11日参照)
- 厚生労働省|キャリアアップ助成金のご案内(令和8年度版・パンフレット)(2026年9月11日参照)
- 厚生労働省|年金制度改正法が成立しました(2026年9月11日参照)
- 厚生労働省|「年収の壁」への対応(2026年9月11日参照)
- 大阪労働局|各種助成金関係機関(2026年9月11日参照)
- Googleトレンド(日本/過去30日間・過去7日間)で「年収の壁」「キャリアアップ助成金」の関連キーワードを参照(2026年9月11日参照)




