「65歳までの雇用確保措置」は、すでに99.9%の企業が対応済みです。ところが、その先――70歳までの就業確保措置まで進んでいる企業は34.8%にとどまります。
この「99.9%」と「34.8%」の差こそが、いま国が予算を投じている領域です。そしてそこには、返済不要の助成金が用意されています。
それが65歳超雇用推進助成金。定年を65歳以上に引き上げる、あるいは定年そのものを廃止する、といった取り組みに対して、最大240万円が支給される制度です。ただし――この助成金、申請先はハローワークではありません。ここを知らずに動き出して間に合わなかった、という会社が少なくありません。
この記事でわかること
- 65歳超雇用推進助成金の3コースの違いと、自社がどれに該当するか
- 65歳超継続雇用促進コースの支給額(15万円〜240万円)の決まり方
- 申請窓口がハローワークではなくJEEDである理由と、その実務上の意味
- 「翌月から4か月以内・各月1日〜15日」という申請期間の落とし穴
- 予算上限による受付停止リスクと、今日からできる準備の手順
なぜ今「65歳超」なのか|99.9%と34.8%のギャップ
厚生労働省が公表した令和7年「高年齢者雇用状況等報告」の集計結果(令和7年6月1日時点、常時21人以上を雇用する企業237,739社が対象)は、中小企業の経営者にとって示唆に富む内容でした。
65歳までは「ほぼ全社が対応済み」
- 65歳までの高年齢者雇用確保措置を実施済みの企業:99.9%(中小企業も99.9%)
- その内訳は「継続雇用制度の導入」が65.1%(前年比2.3ポイント減)、「定年の引上げ」が31.0%(同2.3ポイント増)
つまり、いまだに3社に2社は「定年は60歳のまま、その後は嘱託で再雇用」という形を取っています。ただし継続雇用制度の割合は前年から2.3ポイント減り、そのぶん定年引上げが増えました。ゆるやかですが、確実に潮目が変わっています。
70歳までとなると、まだ3社に1社
- 70歳までの高年齢者就業確保措置を実施済みの企業:34.8%(前年比2.9ポイント増)
- うち中小企業は35.2%と、大企業(29.5%)を上回る
- 65歳以上定年企業(定年制の廃止企業を含む)は34.9%(同2.3ポイント増)
注目すべきは、この領域では中小企業のほうが大企業より進んでいるという事実です。人事制度が固まりきっていない分、機動的に動けるからでしょう。規模が小さいことが、ここでは不利ではなく有利に働きます。
65歳までの経過措置は、すでに終わっている
もうひとつ押さえておきたいのが、改正高年齢者雇用安定法の経過措置が令和7年(2025年)3月31日をもって終了したことです。かつては労使協定で対象者を限定することが認められていましたが、現在は希望者全員を65歳まで雇用することが義務です。
つまり「65歳まで」はもう選択の余地がありません。企業として差がつくのは、その先をどう設計するかです。
関西の中小企業にとっての意味
大阪をはじめ関西には、製造業・建設業・運送業など、熟練者の技能が業績に直結する業種が集まっています。60代前半のベテランが抜けた穴を、20代の新規採用ですぐ埋められる仕事ばかりではありません。
採用難が続くなかで、「すでに自社の仕事を知っている人に、あと5年長く働いてもらう」という選択は、採用コストの観点でも技能継承の観点でも合理的です。その制度整備に国が助成金を出す、というのがこの制度の趣旨です。
65歳超雇用推進助成金とは|3コースの全体像
65歳超雇用推進助成金は、独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)が所管する雇用関係助成金です。次の3コースで構成されています。
コース名 | 何をしたら出るか | 金額の目安 | 事前の計画認定 |
|---|---|---|---|
65歳超継続雇用促進コース | 65歳以上への定年引上げ、定年廃止、66歳以上の継続雇用制度導入など | 15万円〜240万円 | 不要(実施後に申請) |
高年齢者評価制度等雇用管理改善コース | 高年齢者向けの賃金・評価・労働時間などの雇用管理制度を整備 | 整備にかかった経費に応じて支給 | 必要 |
高年齢者無期雇用転換コース | 50歳以上・定年未満の有期契約労働者を無期雇用へ転換 | 1人あたり40万円(中小企業) | 必要 |
ここで最初の分かれ道です。1つ目のコースだけは事前の計画認定が不要で、制度を実施したあとに申請します。 残る2つは「計画を出して認定を受けてから実施する」という順序が絶対で、先に実施してしまうと対象外になります。
この「先に動くと損をする」構造は、雇用系助成金にほぼ共通する性質です。雇用助成金の落とし穴|中小企業が「採用してから」では遅い理由でも触れたとおり、助成金は行動の前に設計するものだと考えてください。
コース1|65歳超継続雇用促進コース(最大240万円)
3コースのなかで金額が最も大きく、手続きも比較的シンプルなのがこのコースです。JEED公式ページの内容をもとに整理します。
支給対象となる4つの措置
労働協約または就業規則により、次のいずれかを実施し、就業規則を労働基準監督署へ届け出ることが前提です。
- 65歳以上への定年引上げ(旧定年年齢を上回ること)
- 定年の定めの廃止
- 66歳以上の継続雇用制度の導入(旧定年年齢・旧継続雇用年齢を上回ること)
- 他社による継続雇用制度の導入(定年後に他の事業主が引き続き雇用する制度)
ここで多くの会社が勘違いします。「65歳まで継続雇用しています」では対象になりません。 65歳までは法律上の義務であり、助成金が出るのはその義務を上回る部分だけです。継続雇用制度で申請するなら「66歳以上まで」が必要になります。
支給額は「措置の内容 × 対象人数」で決まる
定年引上げまたは定年廃止の場合の支給額は次のとおりです(令和8年度)。
対象被保険者数 | 65歳への定年引上げ | 66〜69歳へ(引上げ幅5歳未満) | 66〜69歳へ(引上げ幅5歳以上) | 70歳以上への引上げ | 定年の定めの廃止 |
|---|---|---|---|---|---|
1〜3人 | 15万円 | 25万円 | 40万円 | 45万円 | 60万円 |
4〜6人 | 20万円 | 32万円 | 65万円 | 70万円 | 120万円 |
7〜9人 | 25万円 | 39万円 | 110万円 | 115万円 | 180万円 |
10人以上 | 30万円 | 46万円 | 135万円 | 140万円 | 240万円 |
表を眺めると、設計の意図がはっきり読み取れます。
- 「65歳への定年引上げ」は最大でも30万円。義務の範囲に近いので、金額は控えめです。
- 引上げ幅が5歳以上になると金額が跳ね上がる。60歳→66歳と、61歳→66歳では、同じ「66歳への引上げ」でも支給額が大きく変わります。
- 定年廃止が最も高い。10人以上いれば240万円です。
なお、66歳以上の継続雇用制度を導入する場合は別の金額表が適用され、「希望者全員」か「対象者基準あり」かでも金額が変わります。また定年引上げと継続雇用制度の導入を両方実施しても、支給されるのは高いほうの金額のみです。合算はできません。
意外と見落とされる追加要件
制度を変えるだけでは足りません。次の要件も満たす必要があります。
- 高年齢者雇用等推進者の選任
- 高年齢者雇用管理に関する措置を1つ以上実施していること。具体的には、教育訓練の実施、作業施設・方法の改善、健康管理・安全衛生への配慮、職域の拡大、知識・経験を活かせる配置や処遇、賃金体系の見直し、勤務時間制度の弾力化のいずれか
- 支給申請日の前日時点で、1年以上継続して雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者が1人以上いること(期間の定めのない労働契約の者、または定年後に継続雇用されている者に限る)
- 制度の実施日から起算して6か月前の日から支給申請日の前日までの間に、高年齢者雇用安定法第8条・第9条第1項に反する定めをしていないこと
最後の項目は特に重要です。過去にさかのぼって法令違反がないかを見られるため、就業規則の整合性は事前に確認しておくべきです。こうした「制度ごとの要件の前にある共通の土台」については、助成金は制度選びが先ではない|雇用助成金に共通する要件と必要書類にまとめています。
コース2|高年齢者評価制度等雇用管理改善コース
「定年を延ばすのはまだ早い。でも高年齢の社員の処遇は見直したい」という会社向けのコースです。
流れは2段階です。まず、能力開発・能力評価・賃金体系・労働時間などの雇用管理制度の見直しや導入、医師・歯科医師による健康診断制度の導入といった措置を内容とする「雇用管理整備計画書」を作成し、JEED理事長に提出して認定を受けます。そのうえで、計画期間内に措置を実施します。
支給額は整備にかかった経費に応じて算定され、中小企業は助成率が優遇されます。金額の詳細と最新の算定方法はJEEDの当該コースのページおよび支給申請の手引きで必ず確認してください。
実務上のポイントは「計画の認定が先」の一点です。よかれと思って先に制度を変えてしまうと、その分は対象外になります。
コース3|高年齢者無期雇用転換コース(1人40万円)
50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を、無期雇用労働者へ転換した場合に支給されるコースです。
- 支給額:対象労働者1人あたり40万円(中小企業事業主以外は30万円)
- 上限:1支給申請年度・1適用事業所あたり10人まで
- 対象者:有期契約労働者としての通算契約期間が5年以内の者に限る
- 申請:無期雇用転換計画の開始日の6か月前の日から3か月前の日までに計画書を提出
ここも設計が独特です。「通算5年以内」という条件は、労働契約法の無期転換ルール(通算5年超で労働者に無期転換申込権が発生)を意識したものです。つまり労働者から求められる前に、会社側から先んじて無期化した場合に助成するという建て付けになっています。
そして申請期間が「計画開始日の6か月前〜3か月前」であることに注意してください。転換の3か月前を切った時点で、その年度の申請はできません。 逆算して動く必要があります。
50代のパート・契約社員が複数いる会社であれば、10人で最大400万円。定年引上げと合わせて検討する価値があります。60歳以上の方を新たに採用する場面では特定求職者雇用開発助成金という別の選択肢もあり、自社の状況に応じた使い分けが鍵になります。
中小企業がつまずく4つのポイント
1. 申請先はハローワークではない
雇用関係助成金の多くはハローワークや労働局が窓口ですが、65歳超雇用推進助成金の申請先はJEEDの都道府県支部「高齢・障害者業務課」です。大阪と東京だけは名称が異なり、「高齢・障害者窓口サービス課」となります。
大阪の事業所であれば、JEED大阪支部が窓口です。ハローワークに行っても手続きはできません。この一点を知らないまま日数を消費し、後述の申請期間を逃すケースが実際にあります。
2. 申請期間は「翌月から4か月以内・各月1日〜15日」
65歳超継続雇用促進コースの申請期間は、措置の実施日が属する月の翌月から起算して4か月以内。しかも受け付けているのは各月の月初から15日までです(15日が土日祝の場合は翌開庁日)。
つまり実質的に、申請できるのは4回の「15日間の窓」だけ。郵送の場合は消印日ではなく到着日で判定されるため、15日必着です。就業規則の改定と労基署への届出を済ませてから書類を揃えるとなると、想像以上に時間の余裕はありません。
3. 予算上限で受付が停止されることがある
JEEDは公式に、各月ごと・四半期ごとの予算額上限を超える恐れがある場合、支給申請の受付を停止することがあると明示しています。締切前でも止まりうる、ということです。
実際の申請状況も公表されており、令和8年度は7月期で264件・約1億4,224万円、年度累計627件・約3億5,947万円という水準でした(JEED公表値、時期により更新されます)。1件あたりの平均はおおむね50万円台という計算になります。
「予算がなくなったら終わり」という性質上、要件を満たしたら早く出すが鉄則です。
4. 他の助成金との併給調整がある
複数の助成金を同時に申請する場合、併給調整によって一方が支給されないことがあります。厚生労働省は併給調整早見ツールを公開しているので、キャリアアップ助成金や人材開発支援助成金と並行して検討している場合は、申請前に必ず確認してください。
なお、国や地方公共団体等から同一の事由で補助金等を受けている場合も、支給されないことがあります。
今日からできる準備|5つの手順
- 就業規則の定年条項を確認する。現在の定年年齢と継続雇用年齢、そして平成28年10月19日以降で最も高かった年齢を洗い出します。この「旧定年年齢」が支給額の判定基準になります。
- 60歳以上の雇用保険被保険者を数える。1年以上継続雇用されている人が1人以上いるかが入口の条件です。同時に、将来60歳を迎える社員の人数も把握しておくと、どの金額区分を狙えるか見当がつきます。
- 50代の有期契約者を棚卸しする。通算契約期間が5年以内であれば、無期雇用転換コースの対象になりえます。
- 高年齢者雇用等推進者を決める。多くの場合は総務責任者や役員が務めます。併せて、雇用管理に関する措置(健康診断の充実、勤務時間の柔軟化など)を最低1つ実施できる体制を整えます。
- スケジュールを逆算して引く。就業規則の改定・労使への周知・労基署への届出・制度実施日・申請期間(翌月から4か月以内の各月1〜15日)を、カレンダー上に並べます。ここまで来れば、あとは実行するだけです。
まとめ
- 65歳までの雇用確保措置は99.9%の企業が対応済みだが、70歳までとなると34.8%。ここが助成の対象領域
- 65歳超雇用推進助成金は3コース構成。金額が最も大きいのは65歳超継続雇用促進コースで、定年廃止・対象10人以上なら240万円
- 「65歳まで」は義務なので対象外。助成されるのは義務を上回る部分だけ
- 申請先はハローワークではなくJEED。大阪は「高齢・障害者窓口サービス課」
- 申請期間は実施日の翌月から4か月以内、各月1日〜15日。郵送は到着日基準
- 予算上限で受付停止の可能性があるため、要件が整ったら早期に申請する
よくある質問
Q. 定年は60歳のままで、希望者を65歳まで再雇用しています。助成金は出ますか?
A. その状態だけでは対象外です。65歳までの雇用確保は法律上の義務であり、助成の対象は義務を上回る措置に限られます。継続雇用制度で申請するなら66歳以上まで引き上げる必要があります。
Q. 定年を廃止すれば、社員数が少なくても240万円もらえますか?
A. いいえ。定年廃止の場合、対象被保険者数が1〜3人なら60万円、4〜6人で120万円、7〜9人で180万円、10人以上で240万円です。人数に応じた段階制です。
Q. 定年引上げと66歳以上の継続雇用制度を両方導入したら、合算されますか?
A. 合算されません。いずれか高いほうの金額のみが支給されます。
Q. 就業規則を変えてから申請すればよいのですか?
A. 65歳超継続雇用促進コースは実施後の申請でかまいません。ただし評価制度等雇用管理改善コースと無期雇用転換コースは、実施前に計画の認定を受ける必要があります。順序を間違えると対象外になります。
Q. 社会保険労務士に頼まないと申請できませんか?
A. 事業主自身での申請も可能で、令和7年4月からは電子申請にも対応しています。ただし就業規則の改定を伴うため、専門家に相談しながら進める会社が多いのが実情です。
Q. 金額や要件は今後も変わりますか?
A. 変わります。令和8年度も4月8日に支給要領が一部改正され、他社による継続雇用制度の助成方式が定率から定額へ変更されました。申請前には必ずJEEDの最新の「支給申請の手引き」を確認してください。
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65歳超雇用推進助成金は、3コースのどれを選ぶかで金額も手順もまったく変わります。さらにキャリアアップ助成金や人材開発支援助成金との併給調整もあり、「自社の場合はどう組み立てるのが有利か」は、制度の一覧を眺めるだけでは判断がつきません。
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参考文献・出典
- 厚生労働省|令和7年「高年齢者雇用状況等報告」の集計結果を公表します(2026年9月12日参照)
- 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)|65歳超雇用推進助成金(2026年9月12日参照)
- JEED|65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース)(2026年9月12日参照)
- JEED|65歳超雇用推進助成金(高年齢者無期雇用転換コース)(2026年9月12日参照)
- JEED|65歳超雇用推進助成金(高年齢者評価制度等雇用管理改善コース)(2026年9月12日参照)
- 厚生労働省|高年齢者雇用安定法の改正(65歳までの雇用確保措置・経過措置の終了)(2026年9月12日参照)
- 厚生労働省|雇用関係助成金の申請にあたって(併給調整早見ツール)(2026年9月12日参照)
- JEED|都道府県支部一覧(高齢・障害者業務課/大阪・東京は高齢・障害者窓口サービス課)(2026年9月12日参照)
- テーマ選定にあたり Google トレンド(日本/過去7日間の全体トレンド、過去1か月の関連クエリ)を参照。「雇用助成金」の関連クエリで「65歳超雇用推進助成金」「再雇用助成金」(急上昇)などの需要を確認(2026年9月12日参照)
※本記事は2026年9月12日時点の公開情報に基づいています。助成金の金額・要件・申請期間は改正されることがあります。実際の申請にあたっては、必ずJEEDおよび厚生労働省の最新情報をご確認ください。




