「人手が足りない。でも採用にかけられる原資が乏しい」——中小企業の経営者から最も多く聞く悩みです。
その打ち手のひとつが、返済不要の雇用関係助成金。なかでも特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)は、60歳以上の方や母子家庭の母などを雇い入れた中小企業に対し、1人あたり60万円〜最大240万円が支給される制度です。
ただしこの助成金には決定的な特徴があります。「採用の入口」を間違えると、あとから何をしても1円も受け取れないという点です。しかも2026年(令和8年)に要件が2つ変わりました。本記事では厚生労働省の公表資料をもとに、対象者・支給額・改正点・実務のつまずきどころを整理します。
この記事でわかること
- 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)の対象者と支給額
- 2026年(令和8年)に変わった2つの要件
- 「求人票を出す前」に必ず確認すべきこと
- 不支給になりやすい典型的なつまずきパターン
- 今日から着手できる準備の順番
特定求職者雇用開発助成金とは?「採用の入口」で結果が決まる助成金
特定求職者雇用開発助成金(通称・特開金)は、就職が特に難しい方を継続雇用する事業主を支援する、厚生労働省の雇用関係助成金です。複数のコースがありますが、中小企業が最も使う機会が多いのが特定就職困難者コースです。
対象になるのは「ハローワーク等の紹介」で雇い入れた場合だけ
厚生労働省は本コースの概要を、高年齢者や障害者等の就職困難者をハローワーク等の紹介により、継続して雇用する労働者(雇用保険の一般被保険者)として雇い入れる事業主に助成する、と定めています。主な支給要件は次の2点です。
- ハローワーク、または厚生労働大臣の許可を受けた有料・無料職業紹介事業者等の紹介により雇い入れること
- 雇用保険の一般被保険者または高年齢被保険者として雇い入れ、継続して雇用することが確実と認められること
ここが最大のポイントです。求人サイトや知人の紹介、自社ホームページからの直接応募で採用した場合、どれだけ人物が要件に当てはまっていても対象になりません。「誰を雇うか」より先に「どの経路で募集するか」が支給の可否を決めているのです。
なぜ「求人票を出す前」が勝負なのか
助成金は原則として、要件を満たした状態で行った行為に対して後から支給されます。採用が終わってから「実は助成金が使えたらしい」と気づいても、募集経路をさかのぼって変更することはできません。この「先回りの発想」については、雇用助成金の落とし穴|中小企業が「採用してから」では遅い理由【2026年最新】でも詳しく整理しています。
また、返済不要の助成金と、事業投資に対する補助金は性質がまったく異なります。両者の違いが曖昧なままだと打ち手を選べません。基礎から確認したい方は助成金と補助金の違いとは?返済不要の雇用助成金を採用時に活かす5ステップもあわせてご覧ください。
支給額はいくら?対象者の区分と企業規模で決まる
支給額は、対象労働者の類型と企業規模に応じて決まります。中小企業の場合は次のとおりです(カッコ内は中小企業以外)。
対象労働者 | 支給額(中小企業) | 助成対象期間 | 支給対象期ごとの額 |
|---|---|---|---|
高年齢者(60歳以上)、母子家庭の母等 | 60万円(50万円) | 1年 | 30万円 × 2期 |
重度障害者等を除く身体・知的障害者 | 120万円(50万円) | 2年 | 30万円 × 4期 |
重度障害者等 | 240万円(100万円) | 3年 | 40万円 × 6期 |
高年齢者(60歳以上)、母子家庭の母等 | 40万円(30万円) | 1年 | 20万円 × 2期 |
重度障害者等を含む身体・知的・精神障害者 | 80万円(30万円) | 2年 | 20万円 × 4期 |
ここでいう「短時間労働者」とは、1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満の方を指します。また「重度障害者等」には、重度の身体・知的障害者のほか、45歳以上の身体・知的障害者および精神障害者が含まれます。
注意したいのは、支給対象期ごとの支給額は、その期に対象労働者へ実際に支払った賃金額が上限になる点です。表の金額が自動的に満額もらえるわけではありません。詳細は厚生労働省の制度概要パンフレット(令和8年3月5日版)で確認できます。
2026年(令和8年)の改正点は2つ
① 令和8年5月1日以降、60歳以上は「個別支援を受けている方」が対象に
これが実務上、最も影響の大きい変更です。厚生労働省は、令和8年5月1日以降はハローワーク等において就労に向けた個別支援を受けている高年齢者(60歳以上)が対象労働者になる、と告知しています。
さらに、原則として「特定求職者雇用開発助成金の対象労働者であること」を明示した職業紹介が行われた場合のみ支給申請が可能とされています。つまり紹介状などで対象者である旨が明示されているかを、採用選考の段階で確認しておく必要があります。
実務への影響:60歳以上の方を採用する予定があるなら、求人申込みの時点でハローワークの窓口に「特開金の対象になる紹介を受けたい」と伝えておくのが安全です。面接まで進んでから確認しても、紹介の形式は変えられません。
② 令和8年4月以降の申請は賃金台帳の提出が必須
もうひとつは書類要件の厳格化です。令和8年4月以降の申請分からは、添付書類として賃金台帳の提出が確認できない場合は不支給となります。詳細は厚生労働省の賃金台帳の提出に関するリーフレットに示されています。
「書類の不備や添付漏れがある場合は受理できない」とも明記されているため、労働基準法で定められた記入事項を満たした賃金台帳を、日ごろから整備しておくことが前提になります。給与計算をエクセルや手書きで運用している事業所ほど、この点は早めに手を打っておきたいところです。
不支給になりやすい3つのつまずきパターン
- 募集経路がハローワーク等の紹介でない/求人媒体や直接応募からの採用は対象外です。同じ人材でも入口が違うだけで結果が変わります。
- 有期雇用契約に「自動更新」の記載がない/有期雇用労働者として雇用する場合、本人が望む限り更新できる「自動更新」のみが支給対象です。この確認は雇用契約書で行われるため、契約書への明記が必要になります。なお、更新の条件として就業規則の解雇要件を超えるものが付されている場合は対象外です。
- 雇用関係助成金の共通要件を満たしていない/雇用保険適用事業所であること、労働関係法令を遵守していること、支給申請前後の一定期間に事業主都合の離職者を出していないことなど、コース固有の要件以外にも雇用関係助成金共通の要件があります。ここを見落とすケースが少なくありません。
今日からできる準備の手順
- 今後6か月の採用計画を書き出す/何人を、いつ、どんな雇用形態で採るのか。ここが起点です。
- 候補者の属性を確認する/60歳以上、母子家庭の母、障害のある方など、対象区分に当てはまる可能性があるかを洗い出します。
- 管轄のハローワークに事前相談する/求人を出す前に「特開金を活用したい」と伝え、対象者に該当する紹介が受けられるかを確認します。管轄は事業所所在地で決まるため、都道府県労働局の所在地案内から確認してください。
- 雇用契約書のひな形を見直す/有期雇用を想定するなら「自動更新」の文言が入っているかを点検します。
- 賃金台帳の様式を整える/労働基準法で求められる記入事項が揃っているかを確認します。
- 電子申請の準備をする/本コースは電子申請に対応しています。窓口の開庁時間に縛られずに手続きできます。
関西・大阪の中小企業が押さえておきたい視点
大阪府内には複数のハローワークがあり、どこが管轄になるかは事業所の所在地で決まります。本社と店舗・工場が別の市区にある場合、相談先を取り違えると初動が遅れがちです。まずは主たる事業所の管轄を確認してから動きましょう。
また、60歳以上の人材活用は制度改正の文脈だけの話ではありません。厚生労働省の高年齢者雇用状況等報告では、70歳までの就業確保措置を実施済みの企業割合が中小企業のほうが大企業を上回る結果が示されています。人手不足の現場では、すでに高年齢人材が戦力として組み込まれているということです。関西の中小企業にとっても、60歳以上の採用は「特例」ではなく通常の選択肢になりつつあります。
正社員化や賃金改善とセットで検討したい場合は、キャリアアップ助成金2026|正社員化で最大80万円・中小企業の申請5ステップもあわせてご確認ください。制度は組み合わせて設計するほど効果が出ます。
まとめ
- 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)は、ハローワーク等の紹介で就職困難者を継続雇用した事業主が対象。
- 中小企業の支給額は、60歳以上・母子家庭の母等で60万円(短時間労働者は40万円)、重度障害者等では最大240万円。
- 令和8年5月1日以降、60歳以上は個別支援を受けている方が対象。紹介時点での明示が必要。
- 令和8年4月以降の申請は賃金台帳の提出が必須。不備があれば不支給。
- 勝負どころは求人票を出す前。採用が決まってからでは間に合わない。
よくある質問(FAQ)
Q1. 求人サイト経由で採用した60歳の方は対象になりますか?
A. 対象になりません。本コースはハローワークまたは要件を満たす職業紹介事業者等の紹介による雇入れが前提です。募集経路を先に決めることが重要です。
Q2. パートタイムでも助成されますか?
A. 1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満の「短時間労働者」であれば対象区分があります。高年齢者・母子家庭の母等の場合、中小企業で40万円(20万円×2期)です。
Q3. 表にある金額は必ず満額もらえますか?
A. いいえ。支給対象期ごとの支給額は、その期に対象労働者へ支払った賃金額が上限になります。所定の金額が自動的に支給されるわけではありません。
Q4. 有期契約で採用する場合の注意点は?
A. 本人が望む限り更新できる「自動更新」であることが必要で、その旨を雇用契約書に記載しておく必要があります。
Q5. 申請はいつ行いますか?
A. 支給対象期ごとに区切って申請します。申請書類は、要件に該当する事業主に対して管轄労働局から送付される運用です。具体的な時期や様式は管轄のハローワーク・労働局にご確認ください。
Q6. 制度の内容は変わりますか?
A. 雇用関係助成金は年度ごとに見直されます。実際、令和8年度も対象者要件と提出書類が変更されました。金額・要件・期限は必ず最新の一次情報でご確認ください。
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※支給額・要件・締切は制度改定により変わります。実際の可否は個別の状況によって異なりますので、必ず最新の一次情報および管轄窓口でご確認ください。
参考文献・出典
- 厚生労働省|特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)(2026年8月12日参照)
- 厚生労働省|特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)制度概要パンフレット(R8.3.5版・PDF)(2026年8月12日参照)
- 厚生労働省|支給申請時の賃金台帳の提出について(リーフレット・PDF)(2026年8月12日参照)
- 厚生労働省|雇用関係助成金共通の要件(2026年8月12日参照)
- 厚生労働省|特定求職者雇用開発助成金の電子申請(2026年8月12日参照)
- 厚生労働省|高年齢者雇用状況等報告について(令和7年集計結果)(2026年8月12日参照)
- 厚生労働省|都道府県労働局所在地一覧(2026年8月12日参照)
※本記事の作成にあたり、Googleトレンド(日本/過去7日間・過去30日間)での関連語確認を試みましたが、当日はデータ取得が制限されたため、検索需要の把握はWeb検索および過去のSearch Console実績に基づいています。



