「社員研修をやりたいが、費用が重い」——その負担を国が肩代わりしてくれる制度が、人材開発支援助成金です。
ところがこの制度、2026年(令和8年)に入って立て続けに改正されました。新設されたコース加算があり、さらに5月14日からは提出書類が1枚増えています。
「去年と同じつもり」で準備すると、支給申請の段階で足止めを食らいかねません。本記事では、中小企業の経営者・総務担当者に向けて、2026年度時点の要点と申請の進め方を整理します。
この記事でわかること
- 人材開発支援助成金の全体像(7コースの役割分担)
- 令和8年4月8日改正で新設・追加された3つのポイント
- 令和8年5月14日から必須になった「疎明書(様式第28号)」の中身
- 訓練計画届から支給申請までの実務6ステップ
- 中小企業がつまずきやすい落とし穴と、その回避法
なぜ今、人材開発支援助成金なのか
結論から言えば、「人を育てたいが原資がない」という中小企業の悩みに、最も直接的に効く制度だからです。
厚生労働省の令和6年度「能力開発基本調査」によると、教育訓練費用(OFF-JT費用や自己啓発支援費用)を支出した企業は54.9%。裏を返せば、4割以上の企業は教育訓練にお金を使えていないということです。
同調査では、OFF-JTに支出した費用の労働者一人当たり平均額は1.5万円(令和5年度実績)にとどまります。年間1.5万円では、外部研修に1回参加させるのがやっとという水準でしょう。
一方で、能力開発や人材育成に関して「何らかの問題がある」とする事業所は79.9%。問題意識はあるのに、予算が追いつかない。この構造的なギャップを埋めるために用意されているのが、人材開発支援助成金です。
人材開発支援助成金は、事業主等が雇用する労働者に対して、職務に関連した専門的な知識及び技能を習得させるための職業訓練等を計画に沿って実施した場合等に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成する制度です。(厚生労働省)
ポイントは「訓練経費」だけでなく「訓練期間中の賃金の一部」も対象になり得ること。研修中は現場を離れるため人件費が"持ち出し"になりますが、その部分にも支援が及びます。
人材開発支援助成金とは|7コースの全体像
人材開発支援助成金は単一の制度ではなく、7つのコースの総称です。自社の目的に合うコースを選ぶところから始まります。
- 人材育成支援コース/職務に関連した知識・技能の訓練、厚生労働大臣認定のOJT付き訓練、非正規雇用労働者の正社員化を目指す訓練
- 教育訓練休暇等付与コース/有給教育訓練等制度を導入し、労働者が休暇を取得して訓練を受けた場合
- 人への投資促進コース/デジタル人材・高度人材の育成、労働者の自発的な訓練、定額制訓練(サブスクリプション型)など
- 事業展開等リスキリング支援コース/新規事業の立ち上げなど事業展開に伴い、新分野の知識・技能を習得させる訓練
- 建設労働者認定訓練コース/建設関連の認定職業訓練・指導員訓練
- 建設労働者技能実習コース/建設労働者への有給の技能向上実習
- 障害者職業能力開発コース/※令和6年4月から高齢・障害・求職者雇用支援機構の助成金へ移管
多くの中小企業がまず検討するのは、前半4コースです。とくに「新入社員研修をどう固めるか」「非正規社員を正社員に引き上げたい」という場面では人材育成支援コース、「DXやAI活用の内製化を進めたい」なら人への投資促進コースや事業展開等リスキリング支援コースが視野に入ります。
選び方の目安
- 採用したばかりの社員を育てたい → 人材育成支援コース
- 非正規社員を戦力化して正社員にしたい → 人材育成支援コース(正社員化を目指す訓練)
- デジタル分野・サブスク型の学習サービスを導入したい → 人への投資促進コース
- 新規事業・業態転換に向けて社員を学び直させたい → 事業展開等リスキリング支援コース
- 学ぶための休暇制度を社内に作りたい → 教育訓練休暇等付与コース
令和8年(2026年)改正の4つのポイント
2026年は改正が2段階で入りました。4月8日にコース内容の拡充、5月14日に申請実務の変更です。順に見ていきます。
① 人材育成支援コース:中高年齢者実習型訓練を新設
厚生労働省は令和8年4月8日付で、人材育成支援コースに「中高年齢者実習型訓練」を新設したことを公表しました。
これまで実習型の訓練は若年層の育成が中心のイメージでしたが、中高年齢層の育成にも制度の間口が広がった形です。ベテラン層の配置転換や、シニア人材の受け入れを考えている企業にとっては検討材料になります。
② 人への投資促進コース:新規採用助成・職務代行助成を追加
同じく令和8年4月8日付で、人への投資促進コースに「新規採用助成」「職務代行助成」が追加されました。
実務的にありがたいのは職務代行助成です。社員を長期の訓練に出すと、その間の業務を誰かが代わりに回さなければなりません。人手の薄い中小企業ほど、この「抜けた穴」がネックになって研修に踏み切れない。その代行にかかる負担に手当てが及ぶ設計は、現場の実態に沿った改正といえます。
③ 事業展開等リスキリング支援コース:設備投資加算を新設
令和8年4月8日付で、事業展開等リスキリング支援コースには「設備投資加算」が新設されました。
新分野への挑戦は、たいてい「人の学び直し」と「設備の入れ替え」がセットで発生します。両方を同時に進める企業を後押しする改正です。
なお、人への投資促進コースと事業展開等リスキリング支援コースは、いずれも期間を区切って設けられた制度です。活用を考えているなら、先送りせず今年度中に社内の検討を進めることをおすすめします。
④【最重要】令和8年5月14日から「疎明書(様式第28号)」が必須に
実務担当者が最も注意すべきなのがこれです。厚生労働省は令和8年5月14日付の支給要領改正により、「受講料等の価格設定に関する疎明書(様式第28号)」の提出を求めることとしました。
重要なのは、この改正が訓練計画届の提出時期を問わず適用される点です。厚生労働省は、次のいずれかに該当するものが対象だと案内しています。
- 令和8年5月14日時点で、支給申請が行われていないもの
- 支給申請は行われているが、支給決定または不支給決定がされていないもの
つまり「もう計画届は出したから関係ない」とは言えないということ。すでに申請中の案件も、対象なら労働局から追加提出の案内が届きます。
さらに実務上の落とし穴として、厚生労働省は改正に対応した電子申請画面が準備中であることを明記しています。そのため令和8年5月14日以降に電子申請を行う場合は、申請画面内の「3.その他管轄労働局長が必要と認める書類について」の欄に疎明書を添付するよう案内されています。専用の入力欄を探しても見つからず、そこで手が止まる担当者は少なくないはずです。
背景には、厚生労働省が同助成金のページで大きく掲げている「訓練経費は無料になりません」という注意喚起があります。助成金を前提にした不自然な価格設定を防ぐ狙いがあると読み取れます。研修会社から「実質無料になります」といった説明を受けたら、いったん立ち止まるべきサインです。
申請までの実務6ステップ
助成金は「使ったあとに申請する」のではなく、「使う前に届け出る」のが大原則です。順番を間違えると、それだけで対象外になります。
- 目的を決め、コースを選ぶ/「誰に・何を・なぜ学ばせるのか」を先に固める。制度ありきで研修を決めると要件から外れやすくなります。
- 最新のパンフレット・支給要領を確認する/厚生労働省のページには令和8年度版の詳細版パンフレットと支給要領が掲載されています。必ず最新版を参照します。
- 職業能力開発推進者の選任など、社内体制を整える/コースによって求められる社内要件があります。研修日程を決める前に着手します。
- 訓練実施前に「職業訓練実施計画届」を提出する/提出期限はコースごとに定められています。ここが最大の関門で、間に合わなければその研修は対象になりません。
- 訓練を実施し、記録を残す/出勤簿、賃金台帳、受講記録、訓練カリキュラム、支払いを証明する書類。「やった証拠」がなければ助成されません。
- 訓練終了後、期間内に支給申請する/2026年度は疎明書(様式第28号)の添付を忘れずに。電子申請の場合は「その他の書類」欄に添付します。
中小企業がつまずきやすい3つの落とし穴
落とし穴1:計画届を出す前に研修を始めてしまう
最も多い失敗です。「良い研修が見つかったので来週から」——その時点で助成の道は閉じています。研修を探し始めた段階で、同時に計画届の準備を走らせるのが鉄則です。
落とし穴2:書類の保管が甘い
助成金の審査は「実際にその訓練を行い、賃金を支払った」ことの確認作業です。出勤簿や賃金台帳が整っていない、受講記録が手元にない——こうした状態では、要件を満たしていても支給されません。日常の労務管理の精度が、そのまま助成金の受給可否に直結します。
落とし穴3:制度改定に気づかず、前年の情報で動く
本記事で見たとおり、2026年だけで4月と5月に改正が入っています。金額・要件・様式は変わるものと考え、着手のたびに厚生労働省の最新情報を確認してください。ネット上の解説記事は、更新日が古いままのものも珍しくありません。
まとめ
- 人材開発支援助成金は7コースの総称。目的からコースを逆算して選ぶ
- 令和8年4月8日改正で、中高年齢者実習型訓練の新設、新規採用助成・職務代行助成の追加、設備投資加算の新設
- 令和8年5月14日から疎明書(様式第28号)が必須。すでに申請中の案件も対象になり得る
- 電子申請画面は準備中のため、「その他の書類」欄への添付で対応する
- 訓練実施前の計画届が最大の関門。研修探しと並行して準備する
- 金額・要件・締切は改定が入る。必ず厚生労働省の最新パンフレットで確認する
よくある質問(FAQ)
Q. 研修費用は全額戻ってくるのですか?
A. いいえ。厚生労働省は同助成金のページで「訓練経費は無料になりません」と明示しています。助成されるのは訓練経費や訓練期間中の賃金の「一部」です。助成率や上限額はコース・企業規模・要件の充足状況で変わるため、最新のパンフレットで確認してください。
Q. 訓練を終えてから申請することはできますか?
A. 訓練の実施前に職業訓練実施計画届を提出する必要があります。事後の申し込みは原則として対象になりません。
Q. すでに支給申請を済ませていますが、疎明書は必要ですか?
A. 支給決定または不支給決定がされていない場合は対象になり得ます。該当する場合は管轄の労働局から追加提出の案内があるとされていますので、内容を確認して対応してください。
Q. 電子申請で疎明書の添付欄が見当たりません。
A. 改正に対応した電子申請画面は準備中とされています。申請画面内の「3.その他管轄労働局長が必要と認める書類について」の欄に添付するよう案内されています。
Q. 助成金と補助金は何が違うのですか?
A. 一般に、雇用関係の助成金は要件を満たせば受給できる設計で、返済義務がありません。一方の補助金は公募・審査を経て採択される方式が中心です。人材開発支援助成金は前者にあたります。
Q. どのコースが自社に合うか判断できません。
A. 「誰を、どう育てたいか」を先に言語化するのが近道です。判断に迷う場合は、管轄の労働局や、助成金の実務に慣れた専門家に相談することをおすすめします。
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制度は毎年のように変わります。「自社は対象になるのか」「どのコースを選ぶべきか」を独力で判断するのは、通常業務を抱えた担当者にとって負担の大きい作業です。
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- 狙い目はスタッフの採用時・新規開業時。「スタッフを教育する」「雇用スタイルを見直す」「賃金を改善する」といった、スタッフに関するプランに注目します
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大切なのは「国が何のために用意した制度か」を理解し、条件に合わせて雇用環境の整備を先回りしておくこと。準備の順番次第で、受け取れるはずのものを逃してしまうこともあります。具体的な支給額・要件・締切は制度改定によって変わりますので、まずはご相談だけでもお気軽にお声がけください。
参考文献・出典
- 厚生労働省/人材開発支援助成金 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html (参照日:2026年8月1日)
- 厚生労働省/人材開発支援助成金(人材育成支援コース)改正:中高年齢者実習型訓練を新設しました(令和8年4月8日掲載) https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001688194.pdf (参照日:2026年8月1日)
- 厚生労働省/人材開発支援助成金(人への投資促進コース)改正:新規採用助成・職務代行助成を追加しました(令和8年4月8日掲載) https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001687556.pdf (参照日:2026年8月1日)
- 厚生労働省/人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)改正:設備投資加算を新設しました(令和8年4月8日掲載) https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001687557.pdf (参照日:2026年8月1日)
- 厚生労働省/人材開発支援助成金(コース共通)改正:令和8年4月8日からの変更点について https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001687558.pdf (参照日:2026年8月1日)
- 厚生労働省/令和6年度「能力開発基本調査」の結果を公表します(令和7年6月27日) https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/newpage_00202.html (参照日:2026年8月1日)
- 厚生労働省/人材開発支援助成金の申請書類一覧 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1_00011.html (参照日:2026年8月1日)
- Google トレンド(日本・過去7日間/過去1ヶ月)にて「助成金」「人材開発支援助成金」の推移および関連キーワードを参照(参照日:2026年8月1日)
※本記事は2026年8月1日時点の公開情報にもとづいています。助成金の要件・金額・様式は改定される場合がありますので、実際の申請にあたっては必ず厚生労働省および管轄労働局の最新情報をご確認ください。




