10月1日、大阪府の最低賃金が1,231円になります。パートやアルバイトの時給を上げる作業は、もう総務の予定表に入っているはずです。

ところが同じ「賃上げ」をしても、1人あたり4万円〜7万円を受け取る会社と、1円も受け取れない会社に分かれます。分かれ目は賃上げの額ではありません。9月中に1枚の書類を労働局へ出したかどうかです。

この記事では、キャリアアップ助成金「賃金規定等改定コース」を、10月1日の最低賃金改定に間に合わせる方法を、厚生労働省の一次資料をもとに整理します。

この記事でわかること

  • 大阪府の最低賃金1,231円への改定が、なぜ助成金のチャンスになるのか
  • 賃金規定等改定コースの支給額(中小企業で1人4万円〜7万円)と2種類の加算
  • 「キャリアアップ計画書を改定日の前日までに提出」という絶対条件
  • 時給を上げただけでは対象外になる理由と、「賃金規定等」の正体
  • 10月1日に間に合わせるための実務の順番と、見落としやすい落とし穴
  • 業務改善助成金との違いと使い分け

大阪の最低賃金は10月1日から1,231円|「4.59%の賃上げ」が強制的に発生する

大阪地方最低賃金審議会は2026年8月5日、大阪府の地域別最低賃金を現行の1,177円から54円引き上げ、1,231円とする答申を行いました。引上げ率は約4.59%で、発効は2026年10月1日の予定です(日本経済新聞|大阪府内の最低賃金1231円 54円上げ)。確定額と発効日は、厚生労働省の地域別最低賃金の全国一覧で必ずご確認ください。

ここで押さえておきたいのは、最低賃金の引上げが「経営判断で見送れる賃上げ」ではないという点です。時給1,180円で働いているパートスタッフがいれば、10月1日から1,231円以上にしなければ法違反になります。つまり、多くの中小企業にとって約4.6%の賃上げは、やるかやらないかではなく「やらなければならないこと」です。

そして、キャリアアップ助成金の賃金規定等改定コースが求める増額率は「3%以上」。すでに超えています。どうせ払う人件費が、要件を満たしていれば助成金の対象になる——これが、この時期に賃金規定等改定コースを取り上げる理由です。

最低賃金そのものへの対応の全体像は、賃上げしても助成金が出ない理由|大阪の最低賃金1,231円・10月1日への備えでも整理しています。あわせてご覧ください。

賃金規定等改定コースとは|3%以上の増額改定で1人4万円〜7万円

キャリアアップ助成金は、有期雇用労働者・短時間労働者・派遣労働者といった非正規雇用の労働者について、正社員化や処遇改善に取り組んだ事業主を支援する制度です。令和8年度は「正社員化支援」2コースと「処遇改善支援」4コースの計6コースで構成されています(厚生労働省|キャリアアップ助成金)。

そのうち賃金規定等改定コースは、「有期雇用労働者等の基本給の賃金規定等を3%以上増額改定し、その規定を適用させた場合」に支給されるコースです。

支給額は引上げ率で4段階

賃金引上げ率

中小企業(1人あたり)

大企業(1人あたり)

3%以上4%未満

4万円

2.6万円

4%以上5%未満

5万円

3.3万円

5%以上6%未満

6.5万円

4.3万円

6%以上

7万円

4.6万円

1年度・1事業所あたりの支給申請上限は100人です。大阪府の引上げ率4.59%にそろえて賃金規定を改定した場合、区分は「4%以上5%未満」となり、中小企業なら1人5万円。対象者が10人いれば50万円という計算になります(厚生労働省|キャリアアップ助成金のご案内(令和8年度版)リーフレット)。

見落とされがちな2つの加算

賃金規定等改定コースには、1事業所あたり1回だけ使える加算が2種類あります。

  • 職務評価加算:「職務評価」の手法を活用して増額改定を実施した場合、1事業所あたり20万円(大企業15万円)
  • 昇給制度加算:有期雇用労働者等の昇給制度を新たに設けた場合、1事業所あたり20万円(大企業15万円)

職務評価とは、業務内容と責任の程度から職務の大きさを相対的に比較し、待遇がその大きさに見合っているかを把握する手法です。個人の頑張りを見る人事評価とは別物である点に注意してください。なお昇給制度加算については、賃金規定等を増額改定した日と、昇給制度を新たに規定した日の両方が、同一のキャリアアップ計画期間に含まれている必要があります厚生労働省|キャリアアップ助成金Q&A(令和8年度版))。

最大の関門は「キャリアアップ計画書を改定日の前日までに出す」こと

ここが本題です。キャリアアップ助成金の支給要領には、次のように定められています。

各コースを活用する事業主は、天災その他やむを得ない理由がある場合を除き、コース実施日の前日(中略)までに、適用事業所ごとに、キャリアアップ計画書を紙の届出又は電子申請によって管轄労働局長に提出しなければならない。

賃金規定等改定コースにおける「コース実施日」は、賃金規定等を改定した日、正確には改定後の賃金が適用される日です。10月1日分の給与から新しい時給を適用するなら、コース実施日は10月1日。したがってキャリアアップ計画書の提出期限は9月30日ということになります。

しかも計画期間の開始日は「提出日の翌日以後」でなければならず、遡ることはできません。9月30日に出せば、計画期間の始まりは最短で10月1日。ぎりぎりではありますが、間に合います。逆に10月1日を1日でも過ぎてから提出した場合、その改定は永久に助成対象になりません。後から書類を整えても救済されない、というのがこの制度の厳しいところです。

本記事の公開日である2026年9月14日から数えて、残された猶予は約2週間です。

計画書のほかに必要なもの

  • キャリアアップ管理者の選任:雇用保険適用事業所ごとに1名。計画書の提出日以前に選任されている必要があります。適任者がいなければ事業主・役員でも構いませんが、複数事業所の兼務はできません。
  • 労働者代表からの意見聴取:計画は、労働組合または労働者の過半数を代表する者(パートを含む全労働者の代表)の意見を聴いて作成します。
  • 計画期間は3年以上5年以内:一度出せば、その期間中は他のコースにも使えます。

提出は紙でも電子でも可能ですが、雇用関係助成金ポータルから電子申請する場合はGビズIDの取得が前提になります。IDの発行には日数がかかるため、今から電子申請を目指すなら紙での提出も並行して検討したほうが安全です。なお電子で支給申請をするには、計画も電子で出しておく必要があります

「パートの時給を上げた」だけでは対象外|賃金規定等とは何か

もう一つ、実務で最も多い取りこぼしがここです。このコースの対象は「賃金の引上げ」ではなく「賃金規定等の増額改定」です。個々のスタッフの時給を口頭やシフト表で上げただけでは、要件を満たしません。

厚生労働省が「賃金規定等」として認めているのは、就業規則や労働協約において賃金額の定めがあるもので、具体的には次の3つです。

  1. 賃金規定(例:基本給は時給によって定める。金額は能力・経験等に応じ、1級○○円、2級○○円とする)
  2. 賃金テーブル(基本給の単価を金額ごとに整理した一覧表)
  3. 賃金一覧表(等級別でも、個人別・匿名でも可)

重要なのは、既存の賃金規定等を改定する場合、対象労働者が位置づけられていない等級も含めて、すべての等級を3%以上増額改定する必要があるという点です。「最低賃金に引っかかる1級だけ上げる」という対応では、原則として要件を満たしません。

一方で、賃金規定等を新たに作成した場合でも、その内容が対象労働者の過去3か月の賃金実態と比較して3%以上増額していることが確認できれば、助成対象になり得ます。規定がまだない会社にも道は開かれています。

また、常時10人以上の労働者を使用する事業所では、就業規則の改定後すみやかに所轄の労働基準監督署へ届け出る必要があります。本則ではなく賃金規定や賃金一覧表といった附則のみの改定であっても、届出は必要です。10人未満で就業規則の作成義務がない事業所でも、このコースを使うなら就業規則または労働協約を作成し、労働者に明示したうえで取り組まなければなりません。

10月1日改定に間に合わせる実務の順番

残り2週間で動くなら、次の順序が現実的です。

  1. 対象者を洗い出す:有期雇用・パート・アルバイト・派遣のうち、10月1日時点で在籍している人。事業主の3親等以内の親族は対象外です(賃金規定等改定コースでは、増額改定日の前日から3か月前の日を始期として支給申請時点まで判定されます)。
  2. いまの賃金規定等の形を確認する:賃金規定・賃金テーブル・賃金一覧表のいずれかが就業規則等に存在するか。なければ作成する。
  3. 引上げ率を決める:最低賃金対応だけで区切るのか、全等級を4.59%以上そろえるのか。ここで支給額の区分が決まります。
  4. キャリアアップ管理者を選任し、労働者代表の意見を聴く
  5. 9月30日までにキャリアアップ計画書を管轄労働局へ提出(大阪府なら大阪労働局)。
  6. 10月1日から改定後の賃金規定等を適用し、実際にその賃金を支払う
  7. 就業規則等の改定を労働基準監督署へ届け出る(常時10人以上の事業所)。
  8. 6か月分の賃金を支給した日の翌日から2か月以内に支給申請。10月分から適用し月末締め・翌月10日払いなら、6か月目の支払いは翌年4月10日、申請期間は4月11日〜6月10日となります。

関西の中小企業では、10月1日の改定作業と年末調整の準備が重なります。計画書の提出だけは9月中に片づけ、規定の細部は10月以降に詰める、という進め方が現実的です。

見落としやすい落とし穴

  • 「適用」とは実際に支払うこと:規定を改定しただけでは足りません。改定後の規定に基づいて実際に賃金を支給して初めて「適用」と認められます。
  • 最低賃金対応分の扱いは労働局に確認を:最低賃金の引上げに伴う改定について、増額率の計算にどこまで算入できるかは個別の判断が入ります。金額を当てにする前に、必ず管轄労働局へ確認してください。
  • 短時間労働者労働時間延長支援コースとの併給不可:同一の対象労働者・同一の支給対象期間に行った処遇改善については、どちらか一方しか受けられません。
  • 65歳超雇用推進助成金との併給制限:高年齢者評価制度等雇用管理改善コースの支給を受けた事業主には、同一の対象労働者について賃金規定等改定コースは支給されません。
  • 支給申請日に離職していると出ない:本人都合の離職などを除き、支給申請日時点で対象者が離職している場合は支給されません。
  • 不正受給のペナルティは重い:全額返還に加え、延滞金と不正受給額の2割相当額の納付、5年間の受給停止、事業主名の公表があり得ます。書類は原本から転記せず、実際に調製したものをそのまま使ってください。

業務改善助成金とどう違うのか

賃上げで使える国の制度としては、業務改善助成金もよく知られています。両者は目的も窓口も異なります。

キャリアアップ助成金 賃金規定等改定コース

業務改善助成金

支援の対象

非正規雇用労働者の処遇改善(賃金規定等の増額改定)

事業場内最低賃金の引上げと設備投資等

助成されるもの

1人あたり定額(中小4万円〜7万円)

設備投資等にかかった費用の一部

事前手続き

キャリアアップ計画書を改定日の前日までに提出

交付申請書・事業実施計画を事前に提出

設備投資

不要

必要

ざっくり言えば、設備投資をしないなら賃金規定等改定コース、機械やシステムを入れて生産性を上げるなら業務改善助成金という整理になります。要件が合えば両方を検討する価値があります。業務改善助成金の詳細は業務改善助成金2026|9月1日受付開始・最大600万円、大阪の賃上げ前に準備をにまとめています。

また、同じキャリアアップ助成金の正社員化コースでは、令和8年4月8日から自社ウェブサイトでの情報公表による20万円の加算が新設されました。こちらはキャリアアップ助成金|自社HP公表で20万円上乗せ・申請前チェックリストで解説しています。パートの賃上げと正社員転換を同じ年度に進める会社なら、両方を計画書に書いておくのが得策です。

まとめ

  • 大阪府の最低賃金は2026年10月1日から1,231円へ。約4.59%の賃上げが事実上強制される。
  • キャリアアップ助成金の賃金規定等改定コースは、賃金規定等を3%以上増額改定すれば中小企業で1人4万円〜7万円。4.59%なら5万円の区分。上限は年度・事業所あたり100人。
  • 職務評価加算・昇給制度加算で、それぞれ1事業所20万円の上乗せがある。
  • 絶対条件は、キャリアアップ計画書を改定日の前日(10月1日改定なら9月30日)までに管轄労働局へ提出すること。1日遅れたら救済はない。
  • 対象は「時給の引上げ」ではなく「賃金規定等の増額改定」。既存規定を改定するなら全等級が対象。
  • 金額や増額率の判定には個別事情が絡む。動く前に労働局または専門家に確認を。

よくある質問

Q. パートが3人しかいない小さな会社でも使えますか。

A. 雇用保険の適用事業所であり、要件を満たせば人数の下限はありません。労働者が10人未満で就業規則の作成義務がない事業所でも、このコースを使うなら就業規則または労働協約を作成し、賃金規定等を整備したうえで労働者に明示する必要があります。その場合は、支給申請前に労働基準監督署へ届け出るか、周知について事業主と労働者代表の氏名等を記載した申立書を添付します。

Q. 10月1日を過ぎてしまいました。もう間に合いませんか。

A. 10月1日適用分については助成対象になりません。ただしキャリアアップ計画は3年以上5年以内の期間で設定できるので、いま提出しておけば、次回以降の賃金規定等の改定や、正社員化・賞与退職金制度の導入といった他のコースに使えます。「今回は間に合わなかったから来年また」ではなく、いま出しておくことが次の1年を変えます。

Q. 一部のパートだけ時給を上げる場合はどうなりますか。

A. 既存の賃金規定等を改定する場合は、対象労働者が位置づけられていない等級も含め、すべての等級を増額改定することが必要です。一部の非正規雇用労働者のみを対象とする場合は、その区分が雇用形態別・職種別、その他合理的な理由(部門別等)に基づいて区分されている場合に限り、対象労働者と認められます。判断が微妙なケースは事前に労働局へ相談してください。

Q. 助成金はいつ振り込まれますか。

A. 改定後の規定で6か月分の賃金を支給した日の翌日から2か月以内に支給申請を行い、その後に労働局の審査を経て支給決定となります。10月改定なら、申請できるのは翌年の春以降。入金までは相応の時間がかかる前提で資金繰りを組んでください。

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有限会社リールゲイトは、大阪市西区北堀江を拠点に、約20年にわたって返済義務のない雇用助成金(厚生労働省の助成金)の活用をご支援してきました。今回のような最低賃金改定のタイミングは、スタッフに関するプランを見直す絶好の機会です。

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流れは、お問い合わせ → 電話15分の簡単ヒアリング → 訪問またはZoomで60分のカウンセリング → その場で結果をご回答、という4ステップです。対応エリアは大阪・兵庫・京都・奈良・滋賀・和歌山。サービスの詳細は助成金カウンセリングのページをご覧ください。まずはご相談だけでもお気軽にどうぞ。

参考文献・出典

※助成金の支給額・要件・期限は制度改定により変わります。実際の申請にあたっては、必ず厚生労働省の最新資料および管轄の都道府県労働局・ハローワークでご確認ください。