「週20時間未満で働いているパートさんが、社会保険に入ると手取りが減るから時間を増やしたくないと言う」――人手不足の中小企業で、いま最も多い相談の一つです。実は、こうした「年収の壁」を会社側から後押しするための助成金が、厚生労働省のキャリアアップ助成金にあります。

それが「短時間労働者労働時間延長支援コース」です。有期雇用のパートさんなどを新たに社会保険に加入させ、労働時間の延長や賃金アップに取り組んだ事業主が対象になります。Googleトレンド(日本・過去1か月)でも「キャリアアップ助成金」への関心は本日10月13日に大きく高まっており、制度への注目度が上がっていることがうかがえます。

ただし、この助成金は「社会保険に加入させる日の前日まで」に計画書を出していないと対象外になる、時間との勝負の制度です。本記事では、中小企業の経営者・総務担当の方向けに、仕組みと注意点を整理します。

この記事でわかること

  • 短時間労働者労働時間延長支援コースの目的と対象になる従業員
  • 1人あたりの支給額(1年目・2年目)と、賃金アップとの組み合わせ
  • 計画書の提出期限と、申請までの流れ
  • 見落としやすい注意点(不正受給のリスクを含む)

そもそも「年収の壁」と、このコースの関係

パートさんが社会保険(健康保険・厚生年金)に加入すると、保険料の負担が発生します。そのため「働く時間を増やしても手取りが増えない」と感じ、あえて加入要件を下回る働き方を選ぶ方がいます。これが企業側から見ると「人手が足りないのに、シフトを増やせない」という悩みにつながります。

厚生労働省によれば、このコースは2025年7月に設けられ、有期雇用労働者などを新たに社会保険に加入させたうえで、労働時間の延長など収入を増やす取組を行った事業主を支援するものです(旧「社会保険適用時処遇改善コース」からの切り替えも可能。参照:厚生労働省 ウェブマガジン)。令和8年度版のパンフレットにも掲載されています。

対象になる従業員の条件

厚生労働省のリーフレットによると、主な条件は次のとおりです。会社の就業規則や雇用契約の状況と照らし合わせて確認してください。

  • 社会保険加入日の6か月前の日以前から、継続して雇用されている有期雇用労働者等であること
  • その6か月間、社会保険の加入要件を満たさない条件で就業していたこと
  • 同じ事業所で、過去2年以内に社会保険に加入していないこと
  • 事業主または取締役の3親等以内の親族でないこと
  • 支給申請日の時点で離職していないこと

つまり「最近入ったばかりの人」は対象になりにくく、半年以上働いてくれている既存のパートさんが中心になります。

支給額:1年目は最大40万円(中小企業)、2年目は20万円

1年目の取組は、週の所定労働時間の延長幅と賃金アップの組み合わせで決まります。中小企業の場合、いずれのパターンでも1人あたり40万円です(小規模企業は50万円、大企業は30万円)。

週所定労働時間の延長

必要な賃金増額

支給額(中小企業・1人)

5時間以上

なし

40万円

4時間以上5時間未満

5%以上

40万円

3時間以上4時間未満

10%以上

40万円

2時間以上3時間未満

15%以上

40万円

2年目には、さらに「労働時間を2時間以上延長する」「基本給を5%以上増やす」「昇給・賞与・退職金制度を適用する」のいずれかを行うと、中小企業で1人20万円が支給されます。厚生労働省は、1人あたり最大75万円(小規模企業の1年目50万円+2年目25万円)としています。中小企業の場合は、単純に合計すると60万円が目安です。

※ご注意:公開されている様式の記入例には、2年目の支給単価が本文の表と異なる記載があります。金額は制度改定や様式で変わる可能性があるため、申請前に必ず最新の公式資料と労働局・ハローワークで確認してください。参照:厚生労働省 コース案内パンフレット(PDF)

いつまでに何をする?手続きの流れ

  1. キャリアアップ計画書の提出:社会保険に加入させる日の前日までに、管轄の労働局等へ提出します。計画期間は3年以上5年以内で設定します。たとえば11月1日に加入させるなら、10月31日までに提出する必要があります。
  2. 取組の実施:就業規則・雇用契約を見直し、労働時間の延長や賃金アップを実施し、社会保険に加入させます。
  3. 6か月間の継続と賃金の支払い:取組後の6か月間(1期分)の賃金を支払います。
  4. 支給申請:賃金を支給した日の翌日から2か月以内に申請します。電子申請は雇用関係助成金ポータルで行い、GビズIDが必要です。

計画書を出さずに先に加入させてしまった場合は、原則として対象外になるおそれがあります。「前日まで」というルールは、他のキャリアアップ助成金のコースでも共通です。パートの正社員化については、パートの正社員化で助成金はいくら?|計画書は転換前日までに【2026】で詳しく解説しています。

失敗しやすい5つのポイント

1. 「いつから加入させるか」を先に決める

すべての起点は社会保険の加入日です。そこから逆算して計画書の提出日を決めます。

2. 本人の意向を確認する

加入や労働時間延長は、本人の同意があってこそです。手取りへの影響を事前に丁寧に説明しましょう。

3. 賃金アップの条件を数字で確認する

延長時間が5時間未満の場合は、賃金の増額率が条件になります。給与計算上の増額率を事前に試算してください。

4. 助成金の種類を混同しない

助成金と補助金は、性質も申請の考え方も異なります。違いは助成金と補助金の違い|経営者が最初に知るべき3つの分かれ道【2026】で整理しています。

5. 不正受給は絶対に避ける

厚生労働省は、不正受給があった場合、受給額の全額返還に加え、延滞金と不正受給額の2割相当額の納付が必要で、不正受給決定日から5年間は雇用関係助成金を受給できないと示しています。書類の整合性は日頃から整えておきましょう。

大阪・関西の中小企業が意識したいこと

パートタイマーの比率が高い小売・飲食・サービス業の多い関西の中小企業では、シフト確保が経営課題になりやすい傾向があります。社会保険の加入要件は制度改正で段階的に変わっているため、「自社のどのパートさんが、いつから加入対象になるのか」を早めに洗い出し、助成金の計画を立てておくと慌てずに済みます。助成金全体の組み立て方については、人材開発支援助成金で研修費は何割戻る?|計画届は開始1か月前まで【2026】も参考になります。

まとめ

短時間労働者労働時間延長支援コースは、「年収の壁」で働く時間を抑えているパートさんに、会社が安心して時間を延ばしてもらうための制度です。要点は、①既存のパートさんが対象、②1年目は中小企業で1人40万円・2年目は20万円、③計画書は社会保険加入日の前日まで、の3点です。まずは対象になりそうな従業員の洗い出しから始めましょう。

よくある質問(FAQ)

Q1. 入社したばかりのパートさんも対象ですか?

A. 社会保険加入日の6か月前の日以前から継続して雇用されていることが条件です。入社から半年未満の方は対象外になります。

Q2. 計画書を出し忘れて、すでに加入させてしまいました。

A. 計画書は加入日の前日までの提出が原則です。個別の事情によって扱いが異なる可能性があるため、管轄の労働局やハローワークに早めにご相談ください。

Q3. 支給額は必ず40万円ですか?

A. 企業規模(小規模・中小・大企業)や取組内容で異なります。また制度改定で変わることがあるため、最新の公式資料でご確認ください。

Q4. 他の助成金と併用できますか?

A. 併用の可否は、助成金の組み合わせや同一の取組かどうかで変わります。計画段階で確認することをおすすめします。

申請前に社内で確認しておきたいチェックリスト

制度の内容を理解したら、次の項目を社内で確認しておくと、計画書の提出までスムーズに進みます。いずれも、助成金を申請するかどうかにかかわらず、労務管理の整理として役立ちます。

  • 対象者の洗い出し:半年以上継続して働いている有期雇用のパートさんのうち、現在は社会保険の加入要件を満たしていない方を一覧にします。入社日、現在の週所定労働時間、時給を並べると判断しやすくなります。
  • 延長後の労働時間と賃金の試算:週の所定労働時間を何時間延ばすのか、その場合に賃金をどれだけ引き上げる必要があるのかを、数字で試算します。人件費と社会保険料の会社負担分も合わせて確認してください。
  • 就業規則・雇用契約書の改定準備:労働時間や賃金の変更は、雇用契約書や就業規則に反映させる必要があります。変更後の書類を用意しておくと、後の申請で整合性を示しやすくなります。
  • 加入予定日の決定とスケジュール化:社会保険の加入日を決め、その前日を計画書の提出期限としてカレンダーに入れます。余裕を持って、期限の1週間前を社内の締切にするのがおすすめです。
  • 賃金台帳・出勤簿の整備:申請時には、取組の前後で労働時間や賃金がどう変わったかを示す資料が必要になります。日頃から記録を正確に残しておきましょう。

この助成金は「申請書類の準備」よりも「事前の計画と日付の管理」が成否を分けます。迷ったら、手続きを進める前に専門家や労働局へ相談することで、取り返しのつかない失敗を防げます。

助成金の活用は「助成金カウンセリング」へ

有限会社リールゲイトでは、返済義務のない雇用助成金(厚生労働省の助成金)の活用を支援する、初回無料の「助成金カウンセリング」を、約20年にわたり行っています。狙い目はスタッフの採用時や新規開業時で、スタッフに関するプランに注目しています。

  • 流れは、お問い合わせ→簡単ヒアリング(電話15分)→カウンセリング(訪問またはZoom 60分)→その場で結果回答
  • 助成金はスタッフ一人ひとりに支給される仕組みで、採用人数に応じて受け取れる金額が増えます
  • 国が何のために用意した制度かを理解し、条件に合う雇用環境を先回りして整えることが大切です

金額や要件は制度改定で変わるため、まずは助成金カウンセリングのご案内をご覧のうえ、ご相談だけでもお気軽にどうぞ。

参考文献・出典