「研修にお金をかけたいけれど、費用の負担が重い」「助成金があると聞いたが、何割戻るのか分からない」。中小企業の経営者から、こうした相談を受けることがあります。
結論から言うと、厚生労働省の人材開発支援助成金(人材育成支援コース)では、研修にかかった経費の一部が助成されます。ただし、受け取れるかどうかは「訓練を始める前に計画届を出したか」で決まります。
この記事では、助成率の目安と、見落としやすい計画届の期限を、厚生労働省の資料にもとづいて整理します。
この記事でわかること
- 人材開発支援助成金(人材育成支援コース)の助成率と賃金助成の目安
- 計画届を出すタイミング(訓練開始の6か月前〜1か月前)
- 研修費の試算例と、申請前に確認したい4つのポイント
- 大阪・関西の中小企業が動き出すときの窓口と進め方
人材開発支援助成金とは?まず全体像を押さえる
人材開発支援助成金は、従業員に職務に関連した訓練を受けさせた事業主に対して、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成する制度です。返済は不要です。厚生労働省のページでは、次の7つのコースが示されています。
- 人材育成支援コース
- 教育訓練休暇等付与コース
- 人への投資促進コース
- 事業展開等リスキリング支援コース
- 建設労働者認定訓練コース
- 建設労働者技能実習コース
- 障害者職業能力開発コース
このうち、一般的な社内外の研修で検討されやすいのが「人材育成支援コース」です。以下はこのコースを中心に説明します。なお、制度は年度ごとに見直されます。厚生労働省のページには、令和8年4月8日付で人材育成支援コースに「中高年齢者実習型訓練」が新設された旨が掲載されています。
研修費は何割戻る?助成率と賃金助成の目安
厚生労働省の詳細パンフレット(人材育成支援コース)によると、中小企業の場合の助成率と賃金助成額は次のとおりです。
訓練の種類 | 経費助成率(通常) | 要件達成時の加算 | 賃金助成(1人1時間) |
|---|---|---|---|
人材育成訓練(正規雇用労働者等) | 45% | +15% | 800円(要件達成時1,000円) |
人材育成訓練(有期契約労働者等) | 70% | +15% | 800円(要件達成時1,000円) |
認定実習併用職業訓練 | 45% | +15% | 800円(要件達成時1,000円) |
有期実習型訓練 | 75% | +25% | 800円(要件達成時1,000円) |
中高年齢者実習型訓練 | 60% | +15% | 800円(要件達成時1,000円) |
「要件達成時」とは、訓練修了後に賃金または資格等手当を一定以上増額した場合などに適用される加算です。つまり、研修を実施しただけでなく、その成果を処遇に反映した事業所ほど助成率が上がる仕組みです。
※上記は中小企業の場合の数値です。助成額には上限などの条件があり、対象となる訓練・労働者の範囲も定められています。実際に使えるかどうかは、必ず最新のパンフレットと管轄の労働局で確認してください。
試算例(あくまで仮定の計算です)
仮に、正規雇用の従業員向けの外部研修で、受講料等の経費が1人あたり20万円かかったとします。助成率45%で単純計算すると、経費助成は9万円です。さらに、この研修が実訓練時間10時間だった場合、賃金助成は800円×10時間=8,000円(1人分)となります。
これは制度の数字を当てはめただけの例で、実際の支給額を示すものではありません。上限額や支給対象経費の範囲によって、実際の金額は変わります。
落とし穴は「計画届」|訓練開始の6か月前〜1か月前に出す
この助成金で最も多いつまずきが、計画届の出し遅れです。パンフレットには「訓練開始日の6か月前から1か月前までの間に計画届を労働局に提出すること」と明記されています。研修を始めてから「あとで申請しよう」と考えても、原則として間に合いません。
また、訓練が終わった後の支給申請にも期限があります。パンフレットでは「訓練終了日の翌日から起算して2か月以内に支給申請を行わない場合は支給されない」とされています。計画届は「始まる1か月前まで」、支給申請は「終わってから2か月以内」と、前後に2つの期限があると覚えておくと安心です。
同じ考え方は他の雇用助成金にも共通します。雇用助成金の落とし穴|中小企業が「採用してから」では遅い理由では、事前の準備が重要な理由を解説しています。また、制度をまたいだ共通の要件や必要書類については、助成は制度選びが先ではない|雇用助成金に共通する要件と必要書類も参考になります。
申請前に確認したい4つのポイント
1. 訓練の時間数・期間が要件に合っているか
パンフレットでは、人材育成訓練は実訓練時間10時間以上が目安として示されています。認定実習併用職業訓練は年850時間以上、有期実習型訓練と中高年齢者実習型訓練は6か月あたり425時間以上など、訓練の種類ごとに要件が異なります。
2. 対象になる従業員か
人材育成訓練の対象は雇用保険の被保険者です。実習型の訓練では、年齢の条件(認定実習併用職業訓練は訓練開始日時点で15歳以上45歳未満、中高年齢者実習型訓練は同時点で45歳以上)や、有期契約労働者等を正規雇用等へ転換することが目的になる点など、条件が分かれます。
3. 訓練の種類(OFF-JT/OJT)の組み合わせ
人材育成訓練はOFF-JT(通常の業務から離れて行う訓練)が対象です。一方、実習型の訓練ではOJTを組み合わせます。OJTの割合も、認定実習併用職業訓練は総訓練時間の2割以上8割以下、有期実習型訓練と中高年齢者実習型訓練は1割以上9割以下と定められています。
4. 書類の最新様式を使う
厚生労働省のページには、令和8年5月14日付の支給要領改正で、受講料等の価格設定に関する疎明書(様式第28号)の提出が必要になった旨が掲載されています。様式や要領は年度の途中でも改正されることがあるため、提出直前に最新版を確認しましょう。
大阪・関西の中小企業が進めるときの手順
制度は全国共通ですが、計画届の提出先は事業所を管轄する労働局です。大阪府に事業所がある場合は大阪労働局が窓口になります。兵庫・京都・奈良・滋賀・和歌山の事業所も、それぞれの管轄の労働局が窓口です。
- 研修の内容と時期を決める(開始日から逆算して、1か月以上前に提出できるか確認)
- 対象となる従業員と訓練の種類を整理する
- 最新のパンフレットで助成率・要件を確認する
- 計画届を労働局へ提出する
- 訓練を実施し、記録(出席・賃金台帳など)を残す
- 訓練終了の翌日から2か月以内に支給申請する
採用や賃金改善など、人に関わる別の助成金と組み合わせて計画すると、年間の人材投資が組み立てやすくなります。たとえば、パートから正社員への転換とあわせて研修を考える場合は、パートの正社員化で助成金はいくら?|計画書は転換前日までにもあわせてご覧ください。
研修を「やって終わり」にしないために|助成金と処遇の組み合わせ方
要件達成時に助成率が上がる設計からも分かるとおり、この制度は「研修を受けさせる」だけでなく「身についた力を処遇に反映する」ことまで含めて後押しするものです。たとえば、訓練の修了後に賃金や資格手当をどう見直すかを、計画の段階であらかじめ社内で決めておくと、加算の対象になるかどうかを判断しやすくなります。
また、研修の選び方も重要です。助成金の対象になるかは、訓練の内容や実施方法、時間数によって決まります。講座を申し込む前に、その講座が対象になり得るかを労働局や専門家に確認しておけば、「受講したのに対象外だった」という事態を避けられます。研修会社の提示する受講料が妥当かどうかを示す書類(令和8年5月14日付の改正で追加された様式第28号)が求められる場面もあるため、申込時に必要書類を研修提供者へ確認しておくと安心です。
経営者の立場では、助成金を「あとから戻ってくるお金」として当てにしすぎないことも大切です。支給は審査を経て決まり、入金までには一定の期間がかかります。まずは自社に必要な研修を決め、そのうえで助成金を賢く組み合わせる、という順序で考えるのが失敗の少ない進め方です。
まとめ
- 人材開発支援助成金(人材育成支援コース)は、研修経費の一部と訓練期間中の賃金の一部が助成される制度。
- 中小企業の経費助成率は、正規雇用労働者等の人材育成訓練で45%(要件達成時+15%)。
- 計画届は訓練開始日の6か月前から1か月前までに労働局へ提出する。
- 支給申請は訓練終了日の翌日から2か月以内。
- 金額・要件は変わるため、最新の公式資料と労働局で必ず確認する。
FAQ(よくある質問)
Q. もう研修を始めてしまいました。今から計画届は出せますか?
A. パンフレットでは、計画届は訓練開始日の6か月前から1か月前までに提出するとされています。すでに始めた訓練は対象にならない可能性が高いため、管轄の労働局にご確認ください。次の研修から事前に準備するのが現実的です。
Q. 助成率が45%なら、研修費の45%が必ず戻りますか?
A. いいえ。上限額や対象経費の範囲、要件があります。助成率は計算の出発点であり、実際の支給額は審査によって決まります。
Q. 有期契約のスタッフも対象になりますか?
A. 人材育成訓練では、有期契約労働者等の助成率は70%と示されています。ただし対象となる条件があるため、最新のパンフレットで確認してください。
Q. 助成金と補助金は何が違いますか?
A. 雇用関係の助成金は、要件を満たして申請すれば支給される仕組みです。審査で競争して採否が決まる補助金とは性格が異なります。詳しくは助成金と補助金の違いとは?の記事もご覧ください。
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参考文献・出典
- 厚生労働省|人材開発支援助成金(2026年10月10日参照)
- 厚生労働省|人材開発支援助成金 人材育成支援コース 詳細パンフレット(PDF)(2026年10月10日参照)
- 厚生労働省|事業主の方のための雇用関係助成金(2026年10月10日参照)
- Googleトレンド(日本・過去1か月)「人材開発支援助成金」の関連トピック(生産性、DX、生成AIなど)を参照(2026年10月10日)



