新しく事業を始めたとき、「開業したら助成金がもらえるらしい」と聞いて調べ始める経営者は少なくありません。ところが、雇用関係の助成金は「開業した」という事実だけで受け取れるものではありません。

鍵になるのは、人を雇う前にどんな手続きを済ませ、どんな計画を出しておくかです。ここを後回しにすると、せっかくの採用が助成金の対象外になってしまうことがあります。

この記事では、厚生労働省などの公式情報をもとに、新規開業の経営者が最初に押さえておきたい届出と、助成金につながる考え方を整理します。

この記事でわかること

  • 開業時に「助成金」と呼ばれるものの種類と、雇用助成金の位置づけ
  • 人を雇う前に出しておく労働保険・雇用保険の届出と期限
  • キャリアアップ助成金・特定求職者雇用開発助成金など、開業直後の採用に関わる制度の押さえどころ
  • 不正受給や「無料診断」勧誘で失敗しないための注意点
  • 開業前後の動きを時系列で整理したチェックリスト

結論:開業時の雇用助成金は「届出」と「順番」で決まる

先に結論をまとめます。新規開業で雇用助成金を視野に入れるなら、次の3点が土台です。

  1. 人を雇ったら、労働保険と雇用保険の手続きを期限内に済ませる
  2. 助成金ごとの計画書や申請の時期を、雇い入れや制度導入の「前」に確認する
  3. 国の制度であることを理解し、不正受給や怪しい勧誘には近づかない

いずれも難しい話ではありませんが、開業直後は忙しく、採用が先に進んでしまいがちです。順番を知っているかどうかが分かれ目になります。

「開業の助成金」といっても種類が違う

「開業 助成金」と検索すると、さまざまな制度が並びます。まず、混ざりやすい種類を分けて考えましょう。

雇用助成金(厚生労働省)

従業員を雇い入れたり、雇用環境を整えたりする事業主に対して支給される制度です。厚生労働省が所管し、原則として返済は不要です。対象になるのは人を雇う取り組みであり、設備や開業費用そのものを対象にする制度ではありません。リールゲイトが扱うのはこの領域です。

補助金・融資・自治体の創業支援

設備投資や販路開拓などの費用を支援する補助金、日本政策金融公庫などの融資、自治体の創業支援は、雇用助成金とは別の制度です。募集時期や審査の考え方も異なります。違いの基本は、助成金と補助金の違いを解説した記事も参考にしてください。

ポイント:開業資金の調達と、雇用助成金の活用は別々に考える。雇用助成金は「人を雇ってから」ではなく「人を雇う準備の段階から」が出発点です。

人を雇う前後にやるべき届出:労働保険・雇用保険

雇用助成金の多くは、雇用保険に加入している事業所であることを前提に運用されています。厚生労働省の共通様式でも、申請書に「雇用保険適用事業所番号」を記載する項目があります(支給要件確認申立書(助成金))。

そのため、開業後に従業員を雇う場合は、次の手続きが入口になります。

手続き

期限の目安

提出先

労働保険 保険関係成立届

保険関係が成立した日から10日以内

所轄の労働基準監督署

概算保険料申告書(納付とあわせて)

保険関係が成立した日から50日以内

労働基準監督署・都道府県労働局・金融機関など

雇用保険 適用事業所設置届

適用事業を開始した日の翌日から10日以内

事業所を管轄するハローワーク

雇用保険 被保険者資格取得届

速やかに(期限は案内ページで確認)

ハローワーク

労働保険の2つの手続きと、雇用保険の手続き先は、労働局の案内「労働者を雇用したとき(労働保険)」で確認できます。また、適用事業所設置届の期限や必要な添付書類(法人は登記事項証明書、事業の実態を示す書類など)は、大阪のハローワークの案内「事業所の方の雇用保険の手続き」に載っています。なお、被保険者資格取得届の期限は、ハローワークの案内で最新の内容を確認してください。

届出が遅れると何が困るのか

届出そのものは法律上の義務ですが、助成金の面でも影響があります。厚生労働省の共通様式では、保険年度を遡った労働保険料の未納がないことなどが確認項目になっています。開業初年度から保険料の手続きを正しく進めておくことが、あとで助成金を使える状態を保つ土台になります。

社長ひとりの開業では雇用助成金は使えない?

雇用助成金は従業員の雇用が前提です。社長ひとり、あるいは役員のみの段階では、対象になる雇い入れがありません。「まだ人を雇う予定はない」という場合でも、将来の採用を見据えて、制度の入口と順番だけ知っておくことには意味があります。

開業直後の採用で関係する主な制度

制度の金額や要件は改定されるため、ここでは考え方と公式ページで確認できる事実に絞って整理します。

特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)

ハローワークや、一定の職業紹介事業者の紹介によって、60歳以上の高年齢者や障害者などを雇用保険の被保険者として継続して雇い入れた事業主に支給される制度です。厚生労働省のページによると、中小企業で短時間労働者以外の場合、60歳以上の高年齢者や母子家庭の母等は60万円(1年間・30万円×2期)、重度障害者等を除く身体・知的障害者は120万円、重度障害者等は240万円とされています。

注意したいのは、「紹介による雇い入れ」が条件になっている点です。自社で見つけて採用したあとに「実は対象だった」と気づいても、紹介の要件を満たさないことがあります。詳しくは特定求職者雇用開発助成金の解説記事で整理しています。出典は厚生労働省|特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)です。

キャリアアップ助成金(正社員化コースなど)

有期雇用やパートで働く人の正社員化や処遇改善に取り組む事業主向けの制度です。厚生労働省のページには、各コースの実施日の前日までに「キャリアアップ計画」を作成して提出する必要があると明記されています(厚生労働省|キャリアアップ助成金)。つまり、正社員にしてから慌てて届け出ても間に合いません。具体的な流れはパートの正社員化と助成金の記事をご覧ください。

開業して間もない会社では、最初はパートやアルバイトで人を採用し、事業が安定してから正社員に切り替えるケースも多いはずです。最初の雇用契約を結ぶ段階で、将来の切り替えを見据えた就業規則や雇用区分を整えておくと、あとの計画書づくりがぐっと楽になります。

制度は毎年のように改定される

雇用関係助成金は、支給額・対象者・提出書類が年度ごとに見直されます。たとえば、厚生労働省は令和8年4月以降の特定求職者雇用開発助成金の申請で賃金台帳の提出が必要になること、提出がない場合は不支給となることを案内しています。ネットで見かけた金額や要件が古い可能性があるため、申請の直前に公式ページと最新の支給要領を必ず確認しましょう。

関西で開業する場合の視点

大阪府・兵庫県・京都府など関西で開業する場合、届出先は事業所の所在地を管轄するハローワークや労働基準監督署になります。大阪市内でも、管轄は事業所の住所によって決まります。開業のタイミングは、物件の契約、内装工事、採用活動が重なって慌ただしくなりがちです。事業所の所在地が決まった時点で、管轄の窓口を調べておくと、後の手続きがスムーズです。

地域独自の創業支援や助成制度が用意されている自治体もありますが、募集期間や要件が変わりやすいため、利用を検討する際は各自治体の公式ページで最新情報を確認してください。

失敗しないための注意点

不正受給は5年間申請できなくなる

雇用関係助成金では、不正受給により不支給や支給取消しとなった場合、その日から5年間は申請できません。取消後5年を経過しても、請求された金額が全額納付されていなければ申請できません。助成金のために実態のない雇用をつくるような行為は絶対に避けてください(出典:厚生労働省|支給要件確認申立書(助成金))。

「無料診断」などの勧誘に注意

厚生労働省は、省の委託を受けているかのように装って助成金の申請や無料診断を持ちかける事例について、省は関与していないと注意喚起しています(厚生労働省|雇用関係助成金)。開業直後は不慣れな分だけ勧誘の標的になりやすいため、連絡が来たら、相手がどこの誰で、何を根拠に話しているのかを確認しましょう。詳しくは助成金の「無料診断」勧誘に注意を促した記事も参考になります。

「採用してから」では遅いものがある

先に述べたとおり、計画書の提出や制度の導入が「前」に必要な助成金があります。採用を決める前に、使えそうな制度の前提だけでも確認する習慣をつけましょう。背景は「採用してから」では遅い理由を解説した記事で詳しく紹介しています。

開業前後の動き:時系列チェックリスト

タイミング

やること

開業準備中

事業所の所在地を確定し、管轄の労働基準監督署・ハローワークを調べる/採用予定の人数と雇用区分(パート・正社員など)を整理する

採用を決める前

使えそうな雇用助成金の名称と、計画書・紹介などの「事前に必要な条件」を確認する

初めて人を雇った直後

労働保険の保険関係成立届(10日以内)、雇用保険の適用事業所設置届(10日以内)を提出する/概算保険料の申告・納付(50日以内)

雇用開始後

被保険者資格取得届の提出(期限はハローワークの案内で確認)/就業規則・賃金台帳・出勤簿などの書類を日頃から整える

制度の取り組みを実施する前

キャリアアップ計画など、各助成金で必要な計画書を実施日の前日までに提出する

申請の直前

公式ページで最新の支給要領・様式を確認する

まとめ

新規開業で雇用助成金を活用するうえで大切なのは、助成金の名前や金額を先に覚えることよりも、人を雇う前後の届出と、助成金ごとの「事前に必要な手続き」の順番を知っておくことです。

労働保険・雇用保険の届出はどちらも10日以内が目安で、キャリアアップ助成金の計画は実施日の前日まで。この2つの期限感だけでも頭に入れておけば、開業直後の採用で取りこぼすリスクを大きく減らせます。金額や要件は改定されるため、最終確認は必ず厚生労働省などの公式情報で行ってください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 開業届を出せば雇用助成金はもらえますか?

A. いいえ。雇用助成金は、従業員を雇い入れる、制度を整えるなどの取り組みが対象で、開業届を出しただけでは対象になりません。

Q2. 社長ひとりでも雇用保険の手続きは必要ですか?

A. 従業員を雇った場合に必要になる手続きです。従業員がいない段階では、雇用助成金の対象となる雇い入れもありません。

Q3. 届出の期限に遅れたらどうなりますか?

A. 事情により扱いが異なるため、まずは管轄の労働基準監督署やハローワークへ相談してください。助成金の面でも、保険料の未納がないことなどが確認されます。

Q4. 金額や条件はどこで確認すればよいですか?

A. 厚生労働省の各助成金のページと、最新の支給要領で確認してください。改定が多いため、申請直前の確認が欠かせません。

Q5. 自社が対象かどうか、自分では判断がつきません。

A. 事業所の状況や採用計画によって使える制度は変わります。専門家に事前相談するのも一つの方法です。

開業直後の採用こそ、助成金カウンセリングで先回りを

リールゲイトは、約20年の実績をもとに、返済義務のない雇用助成金(厚生労働省の助成金)の活用を支援する初回無料の「助成金カウンセリング」を行っています。狙い目は、スタッフの採用時や新規開業時です。

助成金はスタッフ一人ひとりに支給される仕組みで、採用人数に比例して受け取れる金額が増える制度もあります。大切なのは、国が何のために用意した制度なのかを理解し、条件に合わせた雇用環境の整備を先回りして進めることです。

  • 流れは、お問い合わせ → 簡単ヒアリング(電話15分) → カウンセリング(訪問またはZoom・60分) → その場で結果回答
  • 採用前・開業前の段階から、使える可能性のある制度と準備事項を整理できます
  • 金額や要件は制度改定で変わるため、最新の内容に沿ってご案内します

詳しくは助成金カウンセリングのページをご覧ください。まずはご相談だけでもお気軽にどうぞ。

参考文献・出典