「残業を減らしたい」「有給をもっと取らせたい」と思いつつ、勤怠の仕組みや設備に投資する余裕がない——そんな中小企業のための国の制度が、厚生労働省の働き方改革推進支援助成金です。
令和8年度(2026年度)の交付申請期限は2026年11月30日(月)午後5時。ただし国の予算に達すると、期限前でも予告なく受付が締め切られます。
しかも申請の前に、年休管理簿や就業規則など「整えておかないと申請自体ができない」前提条件があります。残り約2か月、いまから何を準備すべきかを一次情報をもとに整理しました。
この記事でわかること
- 働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)の対象企業と助成の仕組み
- 成果目標ごとの上限額と、賃上げ加算・割増賃金率引上げ加算の考え方
- 11月30日の申請期限から逆算したスケジュールと、申請前に整えるべき書類
- 大阪の中小企業がつまずきやすいポイントと相談先
働き方改革推進支援助成金とは|「時短・有休」への投資を国が3/4助成
働き方改革推進支援助成金は、生産性を高めながら時間外労働の削減や年次有給休暇の取得促進に取り組む中小企業に対し、その取り組みにかかった経費の一部を助成する制度です。2020年4月から中小企業にも時間外労働の上限規制が適用されたことを背景に、厚生労働省が毎年度実施しています(出典:厚生労働省|働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース))。
令和8年度は2026年4月13日から申請受付が始まっており、いくつかのコースに分かれています。本記事では、業種を問わず多くの中小企業が対象となる「労働時間短縮・年休促進支援コース」を中心に解説します。建設業・運送業・病院等・情報通信業・宿泊業などには、別途業種別課題対応コースが用意されています。
「助成金」なので返済不要。ただし後払い
厚生労働省の助成金は、要件を満たせば返済の必要がありません。一方で、先に計画を出して交付決定を受け、取り組みを実施し、経費を支払ってから支給申請するという後払いの流れです。助成金と補助金の違いや、雇用系助成金に共通する考え方は助成金は制度選びが先ではない|雇用助成金に共通する要件と必要書類でも解説しています。
対象となる中小企業の条件
主な支給対象は、次のすべてに当てはまる中小企業事業主です。
- 労災保険の適用事業主であること
- 資本金または常時使用する労働者数が中小企業の範囲に収まること
- すべての対象事業場で年休管理簿を作成していること
- 常時10人以上の事業場では、年次有給休暇の時季指定に関する定めのある就業規則を作成し、交付申請の前に労働基準監督署へ届け出ていること
主たる事業 | 資本金(出資総額) | 常時使用する労働者数 |
|---|---|---|
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
※資本金か労働者数のどちらかを満たせば中小企業に該当します。
見落としがちなのが「年休管理簿」と「就業規則の届出」です。これは申請の前提条件なので、整っていないと取り組み内容がどれだけ良くても申請できません。
何に使える?助成対象となる取り組み
次の「改善事業」のうち1つ以上を実施し、その経費が助成対象になります。
- 労務管理担当者に対する研修
- 労働者に対する研修、周知・啓発
- 外部専門家(社会保険労務士・中小企業診断士など)によるコンサルティング
- 就業規則・労使協定等の整備
- 人材確保に向けた取り組み
- 労務管理用ソフトウェア・機器(勤怠管理システム、ICカード打刻機など)の導入・更新
- 労働能率の増進に資する設備・機器等の導入・更新
厚生労働省のリーフレットでは、手書きの出退勤記録をICカードに切り替えて始業・終業時刻を正確に把握できるようになった事例や、新しい設備で時間当たりの生産性が上がった事例が紹介されています。
注意点:原則として、乗用自動車やパソコン・タブレット・スマートフォンの導入・更新は対象外です。「PCを買い替えたい」という用途には使えない点を押さえておきましょう。
成果目標と助成上限額|いくらもらえるのか
取り組みと同時に、次の「成果目標」から1つ以上を選び、達成を目指します。助成額は「成果目標ごとの上限額+加算額」と「対象経費×補助率3/4」のいずれか低いほうです。常時使用する労働者が30人以下で、労務管理用ソフト・機器や設備の導入にかかる費用が30万円を超える場合は、補助率が4/5になります(出典:厚生労働省|令和8年度 労働時間短縮・年休促進支援コースのご案内(PDF))。
成果目標 | 内容 | 上限額 |
|---|---|---|
① 36協定の時間外・休日労働の削減 | 月80時間超→月60時間以下 | 150万円 |
月80時間超→月60時間超80時間以下 | 50万円 | |
月60時間超80時間以下→月60時間以下 | 100万円 | |
② 年次有給休暇の計画的付与制度の新規導入 | — | 25万円 |
③ 時間単位年休+特別休暇の新規導入 | 時間単位年休と特別休暇1種以上 | 25万円 |
成果目標①は、現在の36協定で月60時間を超える時間外・休日労働を設定している事業場が対象です。すでに月45時間程度に抑えている会社は、②や③を中心に検討することになります。
賃上げ加算|人数と引上げ率で上乗せ
成果目標に加えて、労働者の時間当たり賃金を引き上げると上限額が加算されます。常時使用する労働者が30人を超える場合の加算上限は次のとおりです。
引上げ率 | 1〜3人 | 4〜6人 | 7〜10人 | 11〜30人 |
|---|---|---|---|---|
3%以上 | 6万円 | 12万円 | 20万円 | 1人2万円(上限60万円) |
5%以上 | 24万円 | 48万円 | 80万円 | 1人8万円(上限240万円) |
7%以上 | 36万円 | 72万円 | 120万円 | 1人12万円(上限360万円) |
常時使用する労働者が10人以上30人以下なら5%・7%以上の加算額が2倍、10人未満なら2.5倍になります。小規模な会社ほど手厚い設計です。
大阪でも最低賃金の改定に合わせて賃上げを検討する会社は多いはずです。ただし、賃上げのタイミングや対象となる労働者の範囲は支給要領で細かく決められています。賃上げと助成金の関係は最低賃金の賃上げは助成金になる?大阪1,231円|1人最大7万円の使い方も参考にしてください。
割増賃金率引上げ加算
- 月60時間以内の時間外労働の所定割増賃金率を5%以上引き上げる:25万円
- 月45時間超〜60時間以内の割増賃金率を5割以上にし、かつ時間外労働を1人あたり月10時間以上削減する:75万円
〆切は11月30日|逆算スケジュール
リーフレットに示された令和8年度の流れは次のとおりです。
ステップ | 期限 |
|---|---|
交付申請(都道府県労働局 雇用環境・均等部(室)へ) | 2026年11月30日(月)午後5時 |
交付決定後、計画に沿って改善事業を実施 | 2027年1月31日(日)まで |
支給申請 | 事業終了日から30日後、または2027年2月5日(金)のいずれか早い日 |
ここで注意したいのは、交付決定を受けてから取り組みを実施するという順序です。申請前に先走って機器を発注・購入すると、助成対象として認められないおそれがあります。また、実施期間が1月末までと短いため、11月末ぎりぎりに申請すると、交付決定から実施までの時間が足りなくなりがちです。
さらに、厚生労働省は「国の予算額に制約されるため、期限前に受付を締め切る場合がある」と明記しています。締切が近づくほど申請が集中しやすく、書類に不備があれば差し戻しの時間もかかります。「11月30日まであるから大丈夫」ではなく、10月中の申請を目標にするのが安全です。
今日からできる準備チェックリスト
- 年休管理簿を確認する:全従業員分が作成・更新されているか。
- 就業規則を確認する:常時10人以上の事業場なら、年休の時季指定の定めがあり、労基署へ届け出済みか。
- 36協定の現状を確認する:時間外・休日労働の上限が月何時間で設定されているか。成果目標①の対象になるかが決まります。
- 成果目標を選ぶ:36協定の見直し、計画的付与、時間単位年休+特別休暇のどれが自社の実態に合うか。
- 投資内容と見積もりを用意する:勤怠システムや設備など、何を導入すれば時短・有休取得につながるかを説明できるようにする。
- 賃上げ加算を使うか決める:対象人数と引上げ率を試算しておく。
- 相談窓口に早めに問い合わせる:各都道府県の働き方改革推進支援センターや労働局で、無料で相談できます。
電子申請はjGrants(Jグランツ)からも可能です。
大阪の中小企業がつまずきやすいポイント
大阪府内の企業は、大阪労働局の雇用環境・均等部が申請窓口で、事前の相談は大阪働き方改革推進支援センターでも受け付けています。関西の中小企業のご相談を受けていると、次のようなケースが目立ちます。
- 就業規則が古いまま:2019年の年5日取得義務化以降、時季指定の定めを追加していない。
- 10人未満なので就業規則がない:この場合は支給申請時に申立書を出す運用がありますが、年休管理簿は必須です。
- 業務改善助成金と混同している:同じ「賃上げ×設備投資」系でも別の制度です。同じ経費を二重に申請することはできないため、どちらで何を申請するか整理が必要です。業務改善助成金については業務改善助成金2026|9月1日受付開始・最大600万円、大阪の賃上げ前に準備をで解説しています。
まとめ
- 働き方改革推進支援助成金は、時短・有休促進の取り組み費用の3/4(条件により4/5)を助成する返済不要の制度。
- 成果目標①は上限150万円、②③は各25万円。賃上げ加算・割増賃金率引上げ加算で上乗せできる。
- 令和8年度の交付申請期限は11月30日。ただし予算次第で早期締切があり、実施期限は1月31日と短い。
- 年休管理簿と就業規則(時季指定の定め・届出)は申請の前提条件。まずここを確認する。
よくある質問(FAQ)
Q. パソコンやタブレットの購入に使えますか?
A. 原則として対象外です。勤怠管理ソフトや打刻機器、業務効率を上げる設備などが対象になります。
Q. 従業員が5人の会社でも申請できますか?
A. 労災保険の適用事業主で中小企業の範囲に入れば対象です。年休管理簿の作成は必要です。10人未満で就業規則を届け出ていない場合の扱いは、支給要領の参考様式(申立書)を確認してください。
Q. 11月30日までに申請すれば必ず受け付けてもらえますか?
A. いいえ。国の予算に達した時点で、期限前でも受付が締め切られる場合があります。早めの申請をおすすめします。
Q. 交付決定前に機器を買ってしまいました。対象になりますか?
A. 本助成金は交付決定後に計画に沿って事業を実施する流れです。決定前の購入は対象外となるおそれが高いため、購入前に労働局や専門家に確認してください。
助成金を「取りこぼさない」ために|リールゲイトの助成金カウンセリング
働き方改革推進支援助成金のように、厚生労働省の助成金は「国が何を後押ししたいのか」を理解して、先回りして職場環境を整えた会社ほど活用しやすい仕組みです。一方で、要件の確認や就業規則の整備を本業の合間に進めるのは簡単ではありません。
有限会社リールゲイトでは、約20年にわたり返済不要の雇用助成金の活用をサポートしてきました。採用・人材育成・賃金改善など「スタッフに関するプラン」から、御社で使える可能性のある助成金を整理します。
- 初回カウンセリングは無料(お電話で15分ほどヒアリング→訪問またはZoomで60分)
- その場で「使える可能性のある助成金」と準備の方向性をお伝えします
- 採用予定や新規開業のタイミングに合わせた雇用助成金の組み合わせもご相談いただけます
「うちは対象になるのか」を知るだけでも構いません。詳しくは助成金カウンセリングのページをご覧のうえ、お気軽にご相談ください。
参考文献・出典
- 厚生労働省|働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)(2026年9月23日参照)
- 厚生労働省|令和8年度 働き方改革推進支援助成金 労働時間短縮・年休促進支援コースのご案内(PDF)(2026年9月23日参照)
- 厚生労働省|働き方改革推進支援助成金(業種別課題対応コース)(2026年9月23日参照)
- 厚生労働省|働き方改革推進支援センター(2026年9月23日参照)
- 大阪労働局(2026年9月23日参照)
- 厚生労働省 働き方改革特設サイト|大阪働き方改革推進支援センター(2026年9月23日参照)
- デジタル庁|jGrants(電子申請システム)(2026年9月23日参照)
- Googleトレンド(日本・過去1か月「助成金」の検索動向)(2026年9月23日参照)
※本記事の金額・要件・期限は2026年9月23日時点の厚生労働省公表資料にもとづきます。制度は変更されることがあるため、申請の際は必ず最新の交付要綱・支給要領をご確認ください。



