毎月の給与計算で、当たり前のように天引きしている雇用保険料。その一部が「助成金の原資」であることをご存じでしょうか。

しかも助成金の財源にあたる部分は、労働者ではなく事業主だけが負担しています。税金(国庫負担)も入っていません。つまり、雇用関係助成金の元手は、会社が毎年払い続けているお金そのものです。

それでも「制度が複雑だから」「うちは対象外だと思っていた」という理由で、一度も申請しないまま何年も過ぎている中小企業は少なくありません。この記事では、その構造を制度の一次情報から整理します。

この記事でわかること

  • 雇用保険料のうち、どの部分が助成金の原資になっているのか
  • 令和8年度(2026年度)の雇用保険料率と、事業主負担の内訳
  • 自社が年間いくら「助成金の原資」を負担しているかの計算方法
  • 原資を払っているのに受け取れない、よくある3つの理由
  • 今日から確認できる3つのステップと、大阪府内の相談窓口

助成金の原資は、事業主が払う「雇用保険二事業」の保険料

雇用保険は大きく3つの柱でできている

雇用保険と聞くと、多くの方が「失業したときにもらえる手当」を思い浮かべます。しかし制度全体は、そこだけではありません。厚生労働省の資料では、雇用保険は大きく次の3つに整理されています。

  • 失業等給付(基本手当・教育訓練給付など)
  • 育児休業給付
  • 雇用保険二事業(雇用安定事業・能力開発事業)

このうち3つ目の雇用保険二事業が、雇用関係助成金の財源です。厚生労働省の「雇用保険制度の概要(体系)」でも、雇用安定事業の具体例として雇用調整助成金や特定求職者雇用開発助成金が明記されています。雇用保険制度の概要(厚生労働省・PDF)で体系図を確認できます。

二事業の保険料は「事業主のみ負担」で国庫負担もない

ここが最も重要な点です。失業等給付と育児休業給付の保険料は労使が折半しますが、雇用保険二事業の保険料は事業主だけが負担します。さらに、この部分には国庫負担(税金)が投入されていません。

雇用上の諸問題は企業行動に起因するところが多く、その解決は事業主にも利益をもたらす。だから事業主の保険料のみを原資とする――というのが、厚生労働省が示してきた制度設計の考え方です。

言い換えれば、雇用関係助成金は「国からもらう補助」というより、事業主が出し合ったお金を、雇用環境を整えた会社に配分し直す仕組みです。要件に合う取り組みをしているのに申請していない会社は、自社が負担した原資を活用できていないことになります。

ただし誤解のないように書いておくと、二事業の保険料は助成金だけに使われているわけではありません。ハローワークの運営や職業訓練にも充てられており、受け取らなかった分が単純に「消える」わけではない、という点は押さえておいてください。

令和8年度(2026年度)の雇用保険料率

2026年4月1日から2027年3月31日までの雇用保険料率は、前年度から0.1ポイント引き下げられました。厚生労働省(ハローワーク)の案内によると、内訳は次のとおりです。

事業の種類

労働者負担

事業主負担(失業等給付等)

事業主負担(二事業)

合計

一般の事業

5/1,000

5/1,000

3.5/1,000

13.5/1,000

農林水産・清酒製造の事業

6/1,000

6/1,000

3.5/1,000

15.5/1,000

建設の事業

6/1,000

6/1,000

4.5/1,000

16.5/1,000

失業等給付等の料率は労使とも5/1,000(農林水産・清酒製造および建設は6/1,000)に引き下げられた一方で、助成金の原資である雇用保険二事業の料率は3.5/1,000のまま据え置きです(建設の事業は4.5/1,000)。詳細は令和8(2026)年度 雇用保険料率のご案内(厚生労働省・ハローワーク)をご確認ください。

自社は年間いくら「助成金の原資」を払っているのか

計算式はシンプル

計算に必要なのは、年間の賃金総額(雇用保険の対象となる賃金の合計)だけです。

年間の賃金総額 × 3.5 ÷ 1,000 = 年間の二事業負担額(一般の事業の場合)

賃金総額別の目安

年間の賃金総額

二事業分の年間負担(一般の事業)

10年間の累計

2,000万円

70,000円

70万円

3,000万円

105,000円

105万円

5,000万円

175,000円

175万円

1億円

350,000円

350万円

※賃金総額に3.5/1,000を乗じた単純計算です。実際の労働保険料は年度更新で確定するため、正確な金額は申告書でご確認ください。

従業員10名・平均年収500万円の会社なら賃金総額は約5,000万円。二事業分だけで年間17.5万円、10年で175万円を負担している計算になります。キャリアアップ助成金の正社員化コースなど、対象者1人あたりで数十万円が支給される制度があることを考えると、一度でも要件に合う取り組みができれば、数年分の負担額に相当する規模だとわかります。

制度そのものの位置づけについては、助成金と補助金の違いとは?返済不要の雇用助成金を採用時に活かす5ステップもあわせてご覧ください。

原資を払っているのに受け取れない、3つの理由

理由1:共通要件を満たしていない

雇用関係助成金には、制度ごとの要件とは別にすべての制度に共通する要件があります。代表的なものは次の3点です。

  • 雇用保険適用事業所の事業主であること
  • 支給・不支給の審査に必要な書類を整備・保管していること
  • 労働局やハローワークから提出を求められた場合に応じ、実地調査に協力すること

書類の整備は、申請時にまとめて作れるものではありません。出勤簿、賃金台帳、労働条件通知書、就業規則といった日々の労務書類が、そのまま審査の対象になります。「制度を探す前に、書類が揃っているか」が実務上の出発点です。詳しくは助成金は制度選びが先ではない|雇用助成金に共通する要件と必要書類で整理しています。

なお、不正受給をしてから3年以内に支給申請をした事業主などは、受給できません。共通の取扱いは雇用関係助成金の申請にあたって(厚生労働省)にまとまっており、共通要領のQ&Aは2026年9月14日にも更新されています。

理由2:「採用してから」「研修してから」動いている

雇用関係助成金の多くは、取り組みを始める前に計画書を提出する設計になっています。キャリアアップ助成金であればキャリアアップ計画、人材開発支援助成金であれば訓練計画届といった具合です。

採用や研修を終えてから「使える助成金はないか」と探し始めると、計画提出のタイミングを過ぎてしまい、内容としては要件を満たしていても対象外になります。ここが中小企業でいちばん多い取りこぼしです。雇用助成金の落とし穴|中小企業が「採用してから」では遅い理由で、時系列の注意点を詳しく扱っています。

理由3:制度名から探してしまう

「キャリアアップ助成金」「人材開発支援助成金」と制度名で検索すると、要件の細かさに圧倒されて途中で手が止まりがちです。実務では逆向き、つまり「自社がこれからやること」から逆算して制度を探すほうが早く進みます。

  • パート・アルバイトを正社員に登用する予定がある → キャリアアップ助成金
  • 社員に外部研修やOJTを受けさせる予定がある → 人材開発支援助成金
  • 就職が難しい方をハローワーク経由で採用する予定がある → 特定求職者雇用開発助成金

厚生労働省は取組内容や対象者から逆引きできる雇用関係助成金一覧を公開しています。まずはここで当たりをつけるのが確実です。

今日からできる3つの確認

  1. 労働保険の年度更新申告書を開き、賃金総額を確認する
    賃金総額に3.5/1,000を掛ければ、自社が年間いくら助成金の原資を負担しているかがわかります。まずは金額を可視化するところから。
  2. これから12か月の「人の予定」を書き出す
    採用、正社員登用、研修、賃金改定、育休取得。予定が先に見えていれば、計画書の提出が間に合います。助成金は制度から探すのではなく、予定から探します。
  3. 労務書類の棚卸しをする
    出勤簿、賃金台帳、労働条件通知書、就業規則。この4点が直近数年分そろっているかを確認してください。ここが崩れていると、どの制度も申請段階で止まります。

大阪の中小企業が押さえておきたい窓口

大阪府内では、府内ハローワークの助成金業務が大阪労働局助成金センター(雇用環境・均等部)に集約されています。制度によって受付窓口が異なるため、大阪労働局が公開している「雇用・労働分野の助成金申請等受付窓口一覧(大阪府内)」で、自社が使う制度の提出先を事前に確認しておくと手戻りがありません。窓口情報は各種助成金について(大阪労働局)にまとまっています。

あわせて注意したいのが、助成金をめぐる勧誘です。厚生労働省は、委託事業者を名乗って無料査定などを持ちかける事例について注意喚起を出しています。「必ず受給できる」「審査は通る」といった断定的な説明があった場合は、いったん労働局に確認してください。助成金は支給要件を満たすことで受給できる制度であり、事前に受給を保証できるものではありません。

よくある質問(FAQ)

Q. 雇用保険料を払っていれば、自動的に助成金がもらえますか?

A. いいえ。保険料の納付は助成金の前提条件のひとつにすぎません。制度ごとの要件を満たしたうえで、期限内に計画書や支給申請書を提出して初めて支給決定されます。

Q. 令和8年度は料率が下がったので、助成金も減るのでしょうか?

A. 引き下げられたのは失業等給付等の料率(労使とも5/1,000へ)で、助成金の原資である雇用保険二事業の料率は3.5/1,000のまま据え置かれています(建設の事業は4.5/1,000)。ただし各制度の支給額や要件は年度ごとに改定されるため、実際に使う際は必ず最新のパンフレットで確認してください。

Q. 従業員が数名の会社でも対象になりますか?

A. 雇用保険の適用事業所であれば、規模の小ささ自体が除外理由にはなりません。むしろ1人あたりで支給される制度が多いため、少人数の会社でも十分に意味のある金額になります。一方、労働者を1人も雇用していない個人事業主は雇用保険適用事業所にあたらないため、原則として対象外です。

Q. 生産性要件の加算はまだありますか?

A. 生産性要件は2023年(令和5年)3月31日で廃止されています。古い解説記事が残っているため、支給額を調べる際は年度表記のある一次資料を使ってください。

Q. 申請から入金までどれくらいかかりますか?

A. 制度や支給申請の時期によって異なります。多くの制度は取り組みの完了後に一定期間(6か月など)を経てから支給申請するため、計画提出から入金までは年単位になることも珍しくありません。資金繰りの前提には置かず、あくまで整備した雇用環境への後払いと考えるのが安全です。

助成金カウンセリングのご案内

「原資を払っているのはわかったが、自社が何に使えるのかがわからない」。そこで止まってしまう経営者の方は多くいらっしゃいます。有限会社リールゲイトでは、約20年にわたり助成金カウンセリングとして、返済義務のない雇用助成金の活用をご支援してきました。

  • 初回無料のカウンセリングです。お問い合わせ後、電話15分程度の簡単なヒアリングからお進めします。
  • カウンセリングは訪問またはZoomで60分。その場で結果をご回答します。
  • スタッフの採用時・新規開業時が狙い目です。正社員化、人材育成、賃金改善など「スタッフに関するプラン」から逆算してご提案します。

具体的な支給額や要件は制度改定で変わるため、この記事では断定していません。自社の状況に当てはめた確認は、まずはご相談だけでもお気軽にどうぞ。

参考文献・出典

本記事は2026年9月20日時点の公開情報にもとづいて作成しています。助成金は制度改定が多いため、申請前に必ず最新の一次情報および管轄の労働局・ハローワークでご確認ください。